全身の筋力が徐々に衰える難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っていた女性に依頼され、薬物を投与して殺害したなどとして、嘱託殺人罪や別の殺人罪に問われた医師の大久保愉一(よしかず)被告(46)の控訴審判決で、大阪高裁(長井秀典裁判長)は25日、懲役18年とした1審・京都地裁判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。
1、2審を通じて女性を死亡させた事実関係に争いはなく、嘱託殺人罪が適用できるかが争点だった。弁護側は控訴審で、自ら命を絶つ行為は個人の尊厳や自己決定権を含むとされる憲法13条で保障されていると主張。女性の求めに応じた行為に嘱託殺人罪を適用するのは憲法に反するとして無罪を主張していた。
3月の1審判決は、自己決定権などは個人の生存が前提だと指摘。恐怖や苦痛に直面しているからといって、直ちに「自らの命を絶つために他者の援助を求める権利」などについて憲法13条から導き出せないと判断した。
そのうえで、女性の主治医ではなくSNS(ネット交流サービス)で知り合っただけだとして「十分な診察や意思確認ができるとは思えない15分程度で殺害した」と指摘。130万円の報酬を受け取った点にも触れ、「社会的相当性は認められない」と判断して嘱託殺人罪の成立を認めた。
1審判決によると、大久保被告は2019年11月30日、京都市のALS患者、林優里さん(当時51歳)の自宅で、「胃ろう」から薬物を投与して死亡させた。11年3月には知人で元医師の山本直樹被告(47)の父靖さん(当時77歳)を殺害した。
いずれの事件でも山本被告と共謀したと認定された。山本被告は父親への殺人罪について懲役13年が確定し、嘱託殺人罪は控訴中。【土田暁彦】
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