能登半島地震で被災した石川県七尾市の川端珠実さん(51)が30日、母親(75)の古里、富山県高岡市伏木地区で飲食店「ほろ馬車」を開店する。店名は、かつて親戚が経営していた同地区の人気レストラン「幌馬車」を継承。地震で精神的に弱くなった母親に元気を出してほしいと一念発起し、被災地から古里の復興を見守る覚悟を決めた。
川端さんは地震発生時、同じ七尾市内の母親宅で、弟家族ら親戚計約15人でくつろいでいた。大きなけが人がなかったことと、水道が止まったものの電気は通じたため、避難はしなかった。一方自宅は中規模半壊となり、そのまま母親宅で暮らしたが、当の母親は地震後、一気に気弱になってしまった。
加えて、伏木地区出身の母親は、古里に知人や親戚が少なくなり、毎年楽しみにしている5月の「けんかやま 伏木曳山祭」に出掛けても「お里なのに帰る場所がない」と寂しがっていたという。
「幌馬車」は、母親の親戚が経営していたレストランで、川端さん自身も幼いころから大好きだった。特に「クリームシチューピラフ」や、トーストと唐揚げなどがセットになった「バスケットセット」が好物で、いつかこの店を継ぐのが夢だった。しかしタイミングが合わず、店は2010年に惜しまれつつ閉店。川端さんは20歳で調理師免許を取得してからは、七尾市内で飲食関係の会社に勤務していた。
地震後しばらくして、母親に帰る場所を作りたいという思いと、店を復活させたいという二つの願いを一挙に実現しようと一念発起。知人からJR伏木駅すぐそばの元居酒屋の空き店舗を紹介され、かつての店の味を知る人にレシピなどを聞くなどして準備を進めてきた。
新店舗では、自身も大好きだったメニューも提供する予定だが、店の雰囲気が和風なため、夜は七尾名物の「とり野菜鍋」など和風の居酒屋メニューも用意するという。前と同じ店ではないという意味で、店名は一部をひらがなにした。
慣れ親しんだ七尾を離れ、同じ被災地の伏木地区に移住することにはなったが「決して七尾を嫌いになったわけではない。早く元通りに戻ってほしいし、これからどう変わるのか期待したい」と古里の復興を見守る川端さん。長年親しんだ店の復活を母親も大喜びしているといい、「ハードルは高いが、厳選した料理を出して地域に愛される店にしたい」と開店準備に余念がない。【青山郁子】
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