原爆や戦争の体験者が高齢化し、体験を語り継ぐことが難しくなる中、神奈川県は人工知能(AI)を活用して証言を次世代に残す取り組みを進めている。質問すると、事前に収録した体験者の映像と証言の中からAIが最適な部分を選び出し、モニターに映して回答する。都道府県では初の試みで、来年3月までのお披露目を目指す。【遠藤和行】
県は専門業者に委託し、10月下旬に横浜市内で2日間にわたりインタビューの収録を終えた。証言したのは、長崎で被爆した市内在住の西岡洋さん(93)。13歳の時に爆心地から約3・3キロの学校で被爆し、けがはなかったという。
収録は計12時間行われ、西岡さんは椅子に座って身ぶりを交えながら語った。その中で被爆時については「よくピカとかピカドンと言いますね。懐中電灯が光ったような印象を持たれると思いますが、自分の周り全体が、ピンクの混じった黄色の液体の中に一瞬、放り込まれたようになりました。そういうピカです」と表現した。
今後は、被爆当日の証言を中心に約20分にまとめ、さらに証言を基にして質問への回答を作成する。質問は「戦争中はどんな暮らしをしていたか」、「原爆が落ちたときの様子は」、「若い世代に最も伝えたいことは何か」――など多数を想定している。西岡さんは「記録に残すのはありがたいことで、原爆の被害を知ってもらう一助になってほしい」と述べた。
県が委託したのは、ソフトウエア開発のベンチャー企業「シルバコンパス」(浜松市)で、同社開発の「映像対話型語り部支援システム」を使う。「語り部継承プロジェクト」担当の阿部恭久さんは「映像は実際のもので、リアルな体験をリアルに伝え、本人と話しているような経験ができる」と解説。その上で「回答は、収録して保存した映像や音声だけを使うので、AIが勝手に学習して意図しないことを話す危険性はない」と強調する。
県の担当者は「一方的な証言映像より、質問に対して返答がある方が強く印象に残り、次世代への継承に高い効果が期待できる。特に子どもや若者に利用してもらいたい」と話している。
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