警察庁が導入を検討している「仮装身分捜査」は、捜査員が架空の人物になりすまして身分証明書を使うなど、従来の「おとり捜査」から踏み込んだ捜査手法となる。どのような課題があるのか。
警察ではこれまで、おとり捜査を、違法薬物や銃器の取引などで限定的に実施してきた。おとり捜査とは、捜査員や捜査協力者が身分や目的を隠して、犯罪をするように働きかけ、相手が実行に踏み切った際に摘発する手法。
最高裁は2004年7月の決定で、薬物捜査など直接の被害者がいない犯罪で、通常の捜査手法だけでは摘発が困難な場合、機会があれば犯罪をする意思があると疑われる人物に対するおとり捜査は、任意捜査として適法だと示した。
一方で、捜査員が身分を偽る仮装身分捜査は実施してこなかった。捜査手法の高度化に関する有識者研究会の中間報告(11年)では、米国、ドイツ、フランス、イタリア、豪州に潜入捜査員による偽装身分の使用を認める制度があったとされている。
警察庁は強盗などの現場に集まった実行役を事件が起きる前に逮捕するために仮装身分捜査を活用するとみられる。警察関係者は「安易に闇バイトの募集はできないという抑止効果は働くと思う」と話す。
甲南大の園田寿名誉教授(刑法学)は、闇バイトに対する仮装身分捜査の適用について、「強盗事件が相次ぐ中で、一定の抑止効果が期待でき、国民の安心感にもつながる」と理解を示す一方、「特別法を制定するなど適用する範囲を限定すべきだ」と主張する。
警察庁は運用指針を策定する方針だが、園田氏は「指針では適用範囲の解釈が拡大されていく恐れがある。特別法で『闇バイト』を定義して適用範囲を明示するなど、例外的な捜査手法にする立法的な措置が必要だ」と強調する。
また、逮捕するタイミングの難しさも指摘する。
強盗を目的とした闇バイトの場合、実行役が集合した段階で強盗予備容疑が適用できる可能性があるが、指示役からの明確な強盗の指示がなければ、「引っ越しのために集まった」との言い逃れをされかねない。
民家の敷地内に入った段階であれば、住居侵入容疑が適用できるが、逮捕が遅れれば、住人が実際に被害に遭う可能性もある。
また「犯罪グループに警察官であることがばれれば、危険にさらされかねない」と懸念する。
東京都立大の星周一郎教授(刑事法)も導入には、「範囲を限定したうえで実施する段階にきているのでは」と一定の理解を示す。
だが、偽の身分証明書を使うことから、「管理が適切にできるような指針をつくるべきで、国民にも丁寧に説明することが警察には求められる」とした。【山崎征克、松本惇】
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