風呂のフタを開けておいて浴室を暖めるのも対策の一つだ(写真はイメージ)=ゲッティ
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 寒気が流れ込んだ影響で、関東地方にもようやく冬らしい寒さがやってきた。湯船がここちよい季節でもあるが、入浴時の事故が急増するシーズンでもある。急激な血圧の変動で意識障害や脳卒中などを引き起こす「ヒートショック」に、細心の注意が必要となる。

 東京都健康長寿医療センター循環器内科医長の鳥羽梓弓(あゆみ)さんは、「高齢者だけのものと思われがちですが、若い方も要注意です」と訴える。

交通事故死者数の3.7倍の推計も

 ヒートショックとは、気温や室温の急激な変化で血圧が上下に大きく変動することによって起こる健康被害のこと。心筋梗塞(こうそく)、不整脈、脳梗塞を起こすことがある。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2023年に家や居住施設の浴槽で水死した65歳以上の高齢者は6073人だった。同年の全国の交通事故死者(2678人)の実に約2・3倍に上った。

 一方、東京都健康長寿医療センター研究所などが全国各地の消防本部を対象に行った調査では、11年に入浴中に心肺停止状態となった高齢者を月別に追ったところ、12月から2月ごろにかけて急増する傾向がみられた。

 死亡の原因がヒートショックとみられる場合でも、実際には「病死」が死因とされることがあるため、明確な死者数を把握しにくい。

 調査では、ヒートショックに関連した入浴中の急死者が約1万7000人に上ると推計した。

 11年の全国の交通事故死者は4611人。その3・7倍に相当する。

 人間の体は冷えると血管が収縮し、血圧が上昇する。その状態で熱々の風呂に入ると、収縮していた血管が拡張し、血圧は一気に下がる。この際、脳に血液を送る機能がうまく働かないと、気を失ってしまう。

 調査の推計死者数のうち、約3000人は高齢者以外だ。鳥羽さんは若い人にも注意を促す。

 「失神して、おぼれてしまうのが一番危ない。脳や心臓に既往症がないからといって『自分は大丈夫』とは、どうか思わないでください」

 年齢を問わず、備えた方がよさそうだ。

防ぐには

ヒートショックへの備えについて語る東京都健康長寿医療センター循環器内科医長の鳥羽梓弓さん=東京都板橋区の同センターで2024年12月5日午後0時54分、千脇康平撮影
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 ヒートショックを少しでも防ぐには、どうしたらいいだろうか。

 鳥羽さんに聞いた主な対策は――。

①脱衣所、浴室への暖房器具設置や断熱改修

②お風呂のフタを開けて浴室を暖める

③食事や飲酒の直後は入浴を控える

④可能な限り1人での入浴は控え、同居家族がいれば声掛けを

⑤入浴前にコップ1杯の水か清涼飲料水を飲む

⑥湯温は41度以下に設定する

 また、高い位置からシャワーでお湯を張ることでも浴室を暖める効果がある。

 同居する高齢家族には一番風呂ではなく、浴室がより暖まった状態の「二番風呂」に入ってもらうのも対策になるという。

 同居の家族が風呂場で倒れたが、幸いにも早く気付くことができた――。

 そんな場合、適切に対処するにはどう行動したらいいのだろう。

 鳥羽さんがまず挙げたのは、湯に体がつかった状態であれば栓を抜くこと。「湯が張ったままの状態で助けようとするのは重くて難しいからです」。バスタオルを体にかけ、冷やさない配慮も必要だという。

 「失神だけなら、この間に声を掛けたら反応があるはずです。名前を呼んでも反応がない、あるいは苦しそうならすぐに救急車を呼んでください」

 鳥羽さんは、最後に改めて訴えた。

 「ヒートショックは確かに高齢者が多いのですが、若い人も亡くなっています。冬だけでもいいので、入浴時の対策を習慣にしてみてください」【千脇康平】

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