「核兵器が二度と使用されてはならないことを証言によって示してきた」。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞授賞理由では、被爆者による証言の力がたたえられた。毎日新聞が2006年秋から続ける記録報道「ヒバクシャ」はこれまでの掲載が計307回を数え、「同じ体験をしてほしくない」との思いで証言し、行動する人たちの姿を伝えてきた。被爆者が後世に託した言葉を改めて届けたい。【構成・宇城昇】
◇核の非人道性が凝縮
「私みたいな子どもは二度と生まれちゃいけん」
広島県北部に暮らす岸君江さん(78)は、母親の胎内で放射線を浴びた影響で脳や身体に複合的な障害を負う「原爆小頭症」の患者。身長は140センチに満たず、生まれながらに病弱で苦労した人生を証言してきた。06年秋の取材に語った言葉には、核兵器の非人道性が凝縮されている。
核兵器の数には鈍感
「食品に含まれるセシウムには敏感でも、世界にある核兵器の数には鈍感」
「ズッコケ三人組」シリーズなどで知られる児童文学作家の那須正幹(まさもと)さん(21年に79歳で死去)は広島原爆の体験を語りながら、平和を脅かすさまざまな問題に警鐘を鳴らし続けた。東京電力福島第1原発事故から1年近くたった12年冬の取材で、核と世界の現状への危機感を訴えた。
ためらいなくなり、怖い
「国民が核兵器保有につながる議論をためらわなくなったのが一番怖い。核兵器保有までの距離がだんだん近づいている」
日赤長崎原爆病院名誉院長の朝長(ともなが)万左男さん(81)はノルウェー・オスロでのノーベル平和賞の授賞式に招待され、講演も予定している。22年夏の取材では、その年に起きたロシアによるウクライナ侵攻後、日本国内でも核保有論議が公然と起きたことへの危機感をあらわにした。核兵器禁止条約が国連で採択された17年の秋には「人間性を否定する兵器で、国家の安全を保とうとする。これが許せないんですね」と語っていた。
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