東日本大震災で児童74人、教職員10人が津波の犠牲となった宮城県石巻市立大川小学校。その大川地区を舞台に撮影された2本の映画が2024年12月に初めて劇場公開された。

シアター・イメージフォーラム(東京・渋谷区)でのトークに登壇した佐藤そのみ監督(撮影:鈴木款)
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当時大川小の6年生だった妹を亡くした監督の佐藤そのみさんが映画を製作したのは震災から8年後の2019年。劇場公開にむけた思いを聞いた。

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能登の子どもたちにもいつか触れてほしい

「春をかさねて」は大川小で妹を失った女子中学生2人の心の揺れを描いたフィクション。「あなたの瞳に話せたら」は、大川小で家族を亡くした当時の子どもたちのその後を撮影したノンフィクションだ。

当時大川小の6年生だった妹を亡くした監督の佐藤そのみさんは、自身も出演し遺族である「私」としてカメラと向き合う。

「あなたの瞳に話せたら」では監督自らカメラと向き合い、亡くなった妹への手紙を読んだ(©Sonomi Sato)

――前回インタビューしたのは2023年2月でした。当時は自主上映でしたね。

佐藤監督:
映画を上映したいという方が会場を用意してくれて、上映したのは3~40か所くらいです。観客は延べで千人以上だったと思います。今回は劇場に私が直接連絡して、上映することが決まりました。まさに自主配給ですね。

津波で84人が犠牲となった大川小学校。遺族らによって震災遺構として残された(©Sonomi Sato)

――劇場上映をやりたいと思ったのは、どういう理由だったんですか。

佐藤監督:
これまでたくさんの方に見てもらって、反応もすごく暖かくて、いつも褒めてもらいました。でも、もっと厳しい評価にもさらされないと自分が成長できないと思ったのが理由の1つです。もう1つは、どこかで自主上映の流れに一旦区切りをつけたいと思ったことです。
そして今年1月に起きた能登半島地震ですね。能登のニュースを私は東日本大震災の時のことを重ねて見ていました。当時の私は心の置き場がなくて、能登にもそういう子どもたちがいるのではないかと。いつかこの映画に触れてほしいなあと思いました。

「春をかさねて」では震災後の子どもたちの揺れる気持ちを描いた(©Sonomi Sato)

――映画はどんな人たちに見てほしいですか。

佐藤監督:
同世代に見てほしいです。私は14歳の時に震災を経験しました。だから子どもならではの感覚を描きたいという思いがあったので、同じ時代を生きた同世代に見てほしいなあと。

当時「奇跡の少年」と言われた小学生が葛藤しながら成長する姿も描かれている(©Sonomi Sato)

特に「あなたの瞳に話せたら」は10代から20代へと成長する中で自分を模索していくことについても描いているので、その年頃の子たちに見てもらえたら嬉しいなあと思います。これまで同世代からは「自分が見ていない世界だった」「言葉が出ない」という反応がありました。思ったことを言葉にしてもらえたら嬉しいです。

震災後生きてきた人々の記録を伝えたい

――あらためて伺いますが、この2つの映画を通して観客に何を伝えたいですか?

佐藤監督:
映画の舞台は大川地区に限定されていますが、東日本大震災で亡くなった人たちが生きていたという記憶と、震災後生きてきた子どもたち、若者たち、そして大人たちが様々模索しながら生きてきた記録、この2つを伝えたいです。

「春をかさねて」の終盤シーンは大川小学校で撮影された(©Sonomi Sato)

――佐藤監督は2023年に会社を辞めて、映画製作に専念し、2024年は文化庁委託事業の若手映画作家育成プロジェクトで映画製作をされたそうですね。

佐藤監督:
2024年度の若手映画作家4人のうちの1人に選ばれました。先月クランクアップした映画は「スリーピング・スワン」というタイトルです。内容はまだお話しできませんが、来年にお披露目される予定です。

この悲劇を二度と繰り返さないためにも我々は大川小学校で起きたことを忘れてはならない(©Sonomi Sato)

――「春をかさねて」「あなたの瞳に話せたら」の2作は27日まで都内で、その後全国各地で順次公開予定ですね。ありがとうございました。
(フジテレビ解説委員 鈴木款)

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