交流サイト(SNS)を悪用した詐欺の被害が全国で増えている。2023年の県内の被害額(約3億710万円)は、おれおれ詐欺などの特殊詐欺の被害額(約2億円)を上回った。今年に入って「SNS型投資詐欺」で1千万円を失った沖縄本島中部のツヨシさん(75)=仮名=は「家族に対して申し訳ない」と後悔をにじませる。(社会部・玉那覇長輝、知念祥吾)
メッセンジャーで「慧子」から初めてメッセージが届いた際のスマホのやりとり=4月30日、本島中部の被害者宅2月29日午前6時44分。ツヨシさんのスマートフォンに、一通のメッセージが届いた。一緒に暮らす妻サチヨさん(75)と次女マユさん(39)=いずれも仮名=は、まだぐっすり眠っている。
〈はじめまして。慧子(けいこ)と申します〉
フェイスブックに登録している利用者同士でやりとりができるアプリ「メッセンジャー」。アイコンには見慣れないアニメの若い女性。「山田慧子」と名乗る名前も見覚えがない。
〈趣味は何ですか? もっと交流があればうれしいです〉
最初は思わぬメッセージに戸惑ったものの、相手とのやりとりになんとなく好奇心が湧いた。新聞やテレビのニュースで、著名人を名乗って投資を呼びかける詐欺などは目にしていて、SNSの危険性は理解しているつもりだった。
一方で、2~3年前から始めたフェイスブックでつながる「友達」も少なくない。これまでにもSNSで知り合った相手と何度か連絡を取り合ってきた。「山田慧子」と名乗る相手も、その一人のはずだった。
香港在住で42歳の日本人女性という。幼少期に父の仕事で香港に引っ越し、9歳の時に父が交通事故で亡くなった。香港にいる経済学者の叔父に育てられた、と説明した。
それから、連絡は昼夜問わず、毎日続いた。
数日後、「LINEならより連絡が取りやすいから」と提案されて、連絡手段はメッセンジャーからLINEへと変わった。
1千万円をだまし取られたツヨシさんのスマホ。メッセンジャーには、相手から送られてきた「私は縁を信じる人です」とのメッセージが残っている=4月30日、沖縄本島中部の自宅■1週間で5回 200万円ずつ送金
初めての連絡から2週間後。いつものようにメッセージのやりとりをしていると「国際金投資」を持ちかけられた。「慧子」は経済学者の叔父の下、投資で稼ぎを得ているという。
円安やインフレの中、金の取引が良いというもうけ話。〈市場は待ってくれない〉〈チャンスを掴(つか)んでほしい〉などと、執拗(しつよう)な勧誘を断れなかった。
「叔父」とLINEで連絡を取ると、証券会社のアナリストが付き、未公開情報を分析しているという。説明を受けるほどに、不安は取り除かれていった。
数日後、「叔父」からあるアプリをインストールするよう指示された。画面上では、初期投資として振り込んだ20万円が2万円の利益を出していた。
「すごい。先生の言うとおりだ」。これまで感じたことのない高揚感に満ちあふれた。後に偽のアプリだと知ることになるが、ツヨシさんは信じ切っていた。
〈今週中に増額することをおすすめします。1千万円増やせば4月には1300万円ほどになっている〉
「増えたお金は老後の生活に充てよう。きっと家族も喜んでくれる」
それから「叔父」とのやりとりは毎日続き、4時間以上に及ぶことも。送金額は1週間で5回、それぞれ200万円ずつ計1千万円に上った。偽アプリの画面上では2500万円の利益が出ていた。
〈5年に1回の大市場がくる。1300万円を用意できるか〉
1千万円を送金してから1週間後。その頃には貯金が底をついていた。泣く泣く妻に「金を貸してくれ」と頼み込んだ。
本紙の取材に答えるツヨシさん。SNSで知り合った相手を信じ込み、大金を奪われた後悔を語ったここ1カ月のツヨシさんを思い返すと、食事の時もスマホを気にしたり、食後すぐに書斎に入ったり-。妻のサチヨさんは、気付けなかった自責と夫への不信で眠れない日々が続いた。
次女のマユさんは異変に気付いたことがある。父の手帳に連なる「200万円の振り込み」のメモ。問い詰めたが、父は聞く耳を持たなかった。結局、ツヨシさんがだまされていることを悟ったのは、長男に説得され、最寄りの警察署に相談した時だった。
「金は戻ってこないだろう。家族に対して本当に申し訳ないことをしてしまった。あのお金を子や孫に使えていたら」
思い返せば思い返すほど、ツヨシさんは自責の念に駆られている。
■「簡単に解決できる」 相談した弁護士から高額請求 二次被害も相次ぐ
投資ブームの中、ネットで手軽に投資できるようになったこともあり、ツヨシさんが被害に遭った「SNS型投資詐欺」や、恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」は増加傾向にある。一方、SNS関連の詐欺被害増加とともに、弁護士に助けを求めてトラブルになる「二次被害」も相次いでいる。
その多くは、一部の弁護士事務所がインターネットやSNSに広告を掲載し、「被害回復」「簡単に解決可能」といったうたい文言で高額な着手金を支払わせる手口だ。
消費者問題に取り組む沖縄弁護士会の高良祐之弁護士によると、「まずは相談無料」などとうたって相談者を集めて、実際に依頼を受ける時に、50万から数百万円ほどの高額な着手金を請求するケースが多い。
高良弁護士は「SNS詐欺被害で被害金の回収は極めて難しい。SNS広告の『簡単に解決できる』との誘い文句に乗らず、面談できる地元の弁護士や警察へ相談してほしい」と注意を呼びかける。(社会部・豊島鉄博)
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