著書を寄贈した横山小寿々さん(右から2人目)、娘の綾乃さん(右から3人目)、夫の記央さん(右端)=静岡県磐田市役所で2024年5月10日午後4時14分、山田英之撮影

 新型コロナウイルス感染症の後遺症としても注目される筋痛性脳脊髄(せきずい)炎の患者、横山小寿々(こすず)さん(48)が、地元の静岡県磐田市に著書「奇跡を、生きている」(青春出版社)を100冊寄贈した。24時間続く倦怠(けんたい)感や体の痛みに絶望しながらも病気と向き合い、夫や娘に支えられて「生きたい」と思えるようになった経験をつづった。【山田英之】

 筋痛性脳脊髄炎は、健康に生活していた人が突然、激しい倦怠感に襲われ、強い疲労感などが長期間続いて日常生活を送るのが困難になる病気。症状には個人差があり、微熱、筋肉痛、関節痛、思考力の低下、抑うつなどが6カ月以上持続または再発を繰り返す。

 発症の要因は分かっていない。国内に約37万人の患者がいるといわれるが、専門医は少なく、明確な治療方法も確立していない。慢性疲労症候群とも呼ばれるが、一般的な慢性疲労と混同して「サボっている」と誤解されることが問題になっている。

 横山さんが体中に痛みを感じたのは2017年ごろ。首や肩がハンマーでたたかれたように痛み、太陽や電気の光に目が刺されたように痛んだ。脳神経外科、整形外科、内科などで診察を受けたが病名は分からなかった。発症から2年以上たって病名が判明したが、その間に病状は悪化した。現在はほぼ寝たきりの状態になっている。

 病気になる前はセラピストとして働いていた。仕事を失い、今はできないことが増えたが、長女で高校1年の綾乃(りお)さん(15)が描いた絵本に勇気をもらった。絵本は綾乃さんが、多くの人に病気について知ってもらいたいと描いたもので、「奇跡を~」にも掲載されている。「いろんな人の力を借りて生きていこう。数少ないやれることを丁寧にこなしていこう」と思えるようになった。

筋痛性脳脊髄炎の患者、横山小寿々さんの著書「奇跡を、生きている」=静岡県磐田市役所で2024年5月10日午後3時59分、山田英之撮影

 病気になって「当たり前の日常は奇跡だ」と身にしみて思うようになった。自らの経験から、「今、つらいあなた」に向けて伝えたいことも書いた。苦しい時に生きることを選択するために、嫌なことから逃げる▽休む▽楽しむ――を大切にして自分の心と体を守ることを勧める。

 今回の寄贈は綾乃さんが昨秋、本に手紙を添えて草地博昭市長に送ったことで実現した。「認知度が低い病気。見た目で分かりにくく、つらい思いをしている患者がいる」。磐田市役所で10日に開かれた寄贈式で、綾乃さんは筋痛性脳脊髄炎への理解を呼びかけた。

 「これから家族に迷惑をかける。死んだ方がいいんじゃないかと思った。夫と娘は『生きていてほしい』と言ってくれた」。車椅子で出席した横山さんは、病気に悩んだ胸の内や家族に支えられたことを話した。

 車椅子を押していた夫の会社員、記央(のりお)さん(51)は「痛みは測ることができない。同じ病気の人たちはやる気がない、怠けていると誤解されてしまう」と言う。磐田市は図書館や小中学校などに著書を配って病気への正しい理解を広げる。

 著書の帯には、横山さんが励まされた漫画「ちはやふる」の作者、末次由紀さんによる推薦文が書かれている。192ページ。1650円。

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