記者会見で大阪地検特捜部の捜査を批判する中村和洋弁護士(左)ら=大阪市北区で2024年5月14日午後0時11分、土田暁彦撮影

 大阪市の不動産会社「プレサンスコーポレーション」元社長が業務上横領容疑で逮捕、起訴された後に無罪が確定した事件で、捜査を担当した大阪地検特捜部検事が、上司の主任検事に対して「元社長の逮捕は待った方がいい」と訴えていたことが判明した。この進言があった当日、特捜部は元社長の逮捕に踏み切った。

 無罪が確定した山岸忍氏の代理人弁護士は「証拠構造が崩れたのにそのまま逮捕に突き進んだ。結論ありきの捜査だ」と批判した。

 「逮捕は待った方がいい」とする捜査検事に対し、「覚えていない」とした主任検事。代理人の中村和洋弁護士は「上司に進言するのは非常に珍しい。これを覚えていないとするのは不可解だ」と指摘した。調書の訂正を実現させなかった点についても「証拠隠蔽(いんぺい)に当たるのではないか」と述べた。

 陳述書では捜査検事による進言のほか、山岸氏の元部下を大声で怒鳴るなどした取り調べについて、総括審査検察官が問題ないと判断していたことも明らかになった。特捜部の捜査をチェックする総括審査検察官は大阪地検特捜部の証拠改ざん事件(2010年)などを受けて導入された。

 陳述書によると、主任検事は総括審査検察官から「大声で怒鳴るなどしたのは(元部下が)明らかな虚偽供述をしていた場面だけで、調書に署名していることを考慮すれば供述の任意性は損なわれない」と聞いていたと説明した。

 記者会見で中村弁護士は「検察の独自捜査はチェック機能が働いていない。どうして問題ないと判断したか解明する必要がある」と指摘。6月に予定されている尋問で一連の経緯について詳しく問いただす方針を示した。

 近畿大法学部の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「担当検事が慎重な意見を伝えても、組織として逮捕の方針を決めて引き返せなかったのだろう。見立てに固執せず、証拠を冷静に分析すれば、冤罪(えんざい)は防げたのではないか」と述べた。【木島諒子、高良駿輔】

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