スウィフトの被害にファンが抗議するなど、オンライン空間での互助精神や規制を求める動きも生まれている JAMES DEVANEYーGC IMAGES/GETTY IMAGES (SWIFT), UNDEFINED UNDEFINED/ISTOCK
<人気歌手テイラー・スウィフトの偽ヌードが拡散。この騒動が浮き彫りにした、一般女性も狙われる問題の現状と対策を専門家に聞く>
超大物ポップ歌手、テイラー・スウィフトの「ポルノ画像」が拡散する事件が起きた。だがこれは、本人の同意なしにAI(人工知能)で生成された偽物だった。1月24日にX(旧ツイッター)に投稿された画像は、削除されるまでの十数時間に閲覧数が約4500万件に達した。
近年、AIのディープラーニング技術を利用したフェイク画像・動画が、ディープフェイクという名前で知られるようになっている。多くの場合、標的になるのは女性のセレブだが、AIの進化とともに一般人(ほぼ常に女性だ)も狙われやすくなる一方だ。
独立系研究者のジュヌビーブ・オーの推定によれば、昨年作成されたディープフェイクポルノ動画は計14万3000件以上で、一昨年までの総数を上回った。その数は今後、確実に増え続けるだろう。
性的イメージの偽造には、どんな歴史があるのか。有名人と一般の女性の双方が、どのような形で被害を受けているのか。ペンシルベニア大学の研究者で、リベンジポルノなどの画像ベースの性的虐待やオンライン性暴力に詳しいソフィー・マドックスに、ジャーナリストのスコット・ノバーが話を聞いた。
◇ ◇ ◇──「偽ヌード」は目新しい現象ではないのでは?
その起源については、歴史学者のジェシカ・レイクが興味深い研究をしている。写真が普及した19世紀後半には、上流社会の女性の顔写真を、裸体の顔の部分にはめ込んだ写真が流通していたという。
偽ヌードが初めてオンラインで拡散したのは2017年だ。ポルノ映画の出演者の顔を、デジタル処理で別の人物の顔に置き換えるアプリ「ディープヌード」が登場したのがきっかけだった。
これは、19世紀に写真を使って行ったこととほとんど同じだ。偽物の裸体、それも女性の偽ヌードを作り出したいという欲望は大昔から存在するのではないか。
インターネットは、以前よりずっと現実味のある画像を作成・拡散する方法を生み出している。今では、動画・画像生成モデルで非常にリアルなものができる。AIツールは、本人の承諾なしにネット上でかき集めた少女や女性の画像から学習している。テキストプロンプトでも、既存のイメージからでも、本物そっくりの偽ヌードを作り出せる。
──AIによって、問題の規模と深刻度が増している?
そのとおり。ディープフェイクの最初の被害者になった俳優や歌手、活動家が警鐘を鳴らし始めたのは17年だ。児童ポルノの作成に使われ、有名人だけでなく、一般の女性が多大な身体的・心理的打撃を受ける日が来ると、彼らは懸念していた。憂慮すべきことに、特に1年ほど前から、その懸念どおりになっている。
オンラインのAI生成ヌード画像数は昨年の7カ月間で10倍に増えた。派生形の被害も生まれている。一例が、少年に対する恐喝だ。彼らのヌード画像を作成して、拡散すると脅迫する。一方、いわゆるリベンジポルノの被害を受ける少女の比率は、既に圧倒的なまでに高い。
──一般人はどの程度、被害を受けているのか。
私自身、その問いの答えを探している。画像ベースの性的虐待の被害に遭ったら、まずネットから離れるのが典型的な反応だ。プライバシーを侵害され、心に深い傷を負えば、すぐに自分の体験をシェアする気にはなれない。そのために、規模を突き止めるのは非常に難しい。
より広範囲の統計データに目を向けると、特定のグループの被害が突出している。社会的に無視された女性やフェム(女性的なレズビアン)は標的になる可能性がより高く、若年女性や独身女性、LGBTQ+(全ての性的少数者)、先住民女性もそうだ。
──アメリカの一部の州では、この種の行為は法的処罰の対象だが、規制の効果は?
連邦レベルで、ディープフェイクの作成を禁じる法律が検討されている。現在は計16州が、ディープフェイクの偽ヌード作成に対して、ある程度の法的規制を行っているはずだ。さらに、ジョー・バイデン(米大統領)は(昨年10月末に発令した)AIに関する大統領令で、性的プライバシー保護や児童ポルノ作成阻止に言及した。だが、いずれも民事・刑事的対策としては、その場しのぎにすぎない。
被害者のニーズを重視する仕組みとも言い切れない。被害者にとって通常、最も重要なのは問題のコンテンツの削除だ。被害者を中心に据える法的環境であれば、より迅速に削除する責任をプラットフォーム側に課し、常習的虐待の防止を重視するはずだ。
──問題により意識的で、よりよいネット環境をつくるために、ほかにできることは?
私自身の研究から、大きな希望を感じている。研究の一部は、新時代のデジタル世界に直面している思春期の少年少女を対象にしたものだ。
強く伝わってくるのは、互いにプライバシーを守り、積極的で社会性のある行動をしてオンライン空間で支え合いたいと、人々が望んでいること。今回のテイラー・スウィフトの件でも、ファンが擁護に立ち上がっている。
こうした状況がソーシャルネットワークに必要な規制につながるかもしれない。グーグルなどの検索エンジンは問題のある動画生成ツールを積極的に削除すべきだし、ウェブサイトや性的コンテンツを提供するポルノサイトは、年齢・同意確認を徹底すべきだ。
私たちの社会環境が同意を最優先していたら、AIツールはどんなものになっていたか。他者に被害を与えずにセクシュアリティーを楽しみ、表現するツールになっていただろう。それは今からでも実現できるはずだ。
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