順天堂大学の南野徹教授らは30日、糖尿病向けの薬が体内の老化細胞を除去する作用があるとマウスを使った実験で確認したと発表した。慢性的な炎症反応を起こす老化細胞を除去することで、加齢で心身が衰えるフレイルや認知症などを対象とした治療薬の開発につながる。2025年度にも臨床研究を始める。

細胞はがん化を防ぐため、遺伝子が損傷したり、分裂を一定回数くり返したりすると分裂しなくなって、老化細胞となる。老化細胞は炎症を起こす物質を分泌し、通常は免疫細胞によって除去されるが、加齢や肥満などで免疫力が下がってくると蓄積してしまう。慢性的な炎症状態を起こし、動脈硬化や心不全といった病気の発症に関与する。

記者会見に出席する南野徹教授㊨(東京都文京区)

研究チームは糖の摂取量を制限すると老化細胞が減少して動物の寿命が延びる現象に着目し、尿を通じた糖の排出を促す「SGLT2阻害薬」という糖尿病治療薬の効果を調べた。肥満の中年マウスに投与すると、投与しない場合に比べて老化細胞が半分程度に減少した。急速に老化する早老症マウスでは生存する期間が延長された。

詳細に分析したところ、特定の老化細胞の表面には免疫細胞からの攻撃を回避する分子が存在していた。SGLT2阻害薬はこの分子を分解するたんぱく質の働きを高める作用があり、老化細胞が免疫細胞から攻撃を受けやすい状態になっていた。

老化細胞を除去する薬は国内外で開発が進められているが、多くは抗がん剤で副作用の懸念がある。南野教授は「糖尿病治療で既に使われているSGLT2阻害薬は副作用が小さい」とし、ヒトの体内でも老化細胞を除去する効果があると見込む。

海外の研究グループでは老化細胞の除去で認知症が改善したとする動物での研究成果もあり、南野教授らはSGLT2阻害薬で検証を進めている。開発する医薬品の対象となる病気は検討中で「治療手段が無い病気が最初の標的となる」(南野教授)としている。24年度内に臨床研究のための倫理審査を受け、25年度にも開始する。

国立循環器病研究センターや新潟大学などとの共同研究で、成果をまとめた論文は英科学誌「ネイチャーエイジング」に掲載された。

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