サバンナで暮らすアフリカゾウが仲間の死を悼むことは以前から知られていたが、野生のアジアゾウではこれまでほとんど報告がなかった。しかし、2024年2月26日付けで学術誌「Journal of Threatened Taxa」に発表された研究によると、アジアゾウは死んだ子ゾウを埋葬している可能性があるという。

論文では、2022年と2023年にインドのベンガル地方北部で、5つの異なる群れが、死んだ子ゾウを灌漑(かんがい)用の溝まで引きずっていき、そこに埋めた事例が報告されている。どの事例でも、子ゾウの脚は地面から突き出し、頭部や鼻、背中は土で覆われていた。

埋葬という行為は、動物の世界ではほとんど見られない。アフリカゾウ、アジアゾウ、そしてカササギは、死んだ仲間の死骸を草や枝で覆うことが知られており、科学者はこれを「弱い」埋葬と呼ぶ。だが、今回見つかったゾウの埋葬は独特だと、論文の著者であるインド森林局職員のパルビーン・カスワン氏とインド科学教育研究大学プネー校の上級研究員アカシディープ・ロイ氏は言う。

論文の中で著者らは、これはアジアゾウによる埋葬を初めて記録した証拠だと述べている。

この行動は「ヒト以外の種には見られません」とロイ氏は言う。「ゾウをほかの動物種と一線を画す存在にしています。この行動はまた、彼らが愛する者をどれだけ大切に思っているかを物語っています」

一方、もっと多くの証拠が必要だとの声も、複数の専門家から上がっている。埋められた子ゾウはすべて茶畑で見つかっているが、埋める場面を人間が目撃したわけではない点は特に問題だ。

「著者らは、ゾウが埋葬を意図的に行ったという十分な証拠を示していません」と、国際自然保護連合(IUCN)種の保存委員会アジアゾウ専門家グループの副委員長ハイディ・リドル氏は述べている。

「こうした行動に過剰な解釈を加えることには慎重であるべきです」と語るのは、インド科学研究所生態学研究センターのラマン・スクマール名誉教授だ。

今回の論文で報告されている、死んだ子ゾウを運んだり、足を使って死骸に土をかけたりするのは、アジアゾウにとっては一般的な行動であり、ほんとうの埋葬行動とは限らないとスクマール氏は指摘する。

残る謎

埋められた子ゾウのほとんどは、水田で稲作が行われ、ゾウの群れが食物を求めて移動する7月から11月にかけての時期に見つかった。森林が断片化されたため、ゾウはひとつのエリアから別のエリアに移動する際、茶畑を横切らなければならない。

論文によると、ゾウは意図的に場所を選び、夜を待ってから「死んだ子ゾウを人間や肉食動物から離れた孤立した場所に運び、灌漑用の溝やくぼ地を探して埋めた」と考えられるという。

2つのケースでは、茶畑の管理者あるいは警備員が夜間にゾウの鳴き声を聞き、翌朝になって死骸を見つけている。その他3つのケースでは、死骸の発見は偶然だった。インド森林局の一部である西ベンガル森林局が、5つの死骸を移動させて検死を行ったところ、子ゾウは栄養不良や感染症など、さまざまな原因で死亡していたことがわかった。

特に異例なのは、子ゾウの死骸の脚が上に向かって伸びるような姿勢になっている点だと、論文の著者らは言う。ゾウは死んだ子ゾウを運ぶ際、脚や鼻をつかんで引っ張ったと思われるため、深さ45センチほどの溝に「死骸を入れる際にも、そこを持ったはずです」とロイ氏は言う。

ただし、脚が土の外に出ていることに関しては、特別な意味はなさそうだという。もし埋めた場所がもっと深かったら、ゾウたちは死骸を脚まで土で覆っただろうとロイ氏は考えている。

丁寧に置かれた証拠?

カスワン氏ら森林局職員は、子ゾウが埋められた場所を調査し、溝の両側と死骸の上に、さまざまな大きさのゾウの足跡があるのを確認している。これは「死骸を埋める作業に複数のゾウが関わっている」ことを示しているとロイ氏は言う。

「これは地ならしのためにつけられた足跡です。彼らはどの程度の力をどこに加えればいいかを知っているのです」

一方で、これは「埋葬ではなく、探索する際につけられた足跡かもしれません」とリドル氏は述べている。

「ゾウは足を使って地面に何があるかを感じ取ることができます。鼻も使いますが、鼻では土にその跡は残らないでしょう」とリドル氏。

死後の検査ではまた、子ゾウの背中に打撲が見つかっているが、骨折は確認されなかった。

ロイ氏によると、打撲傷は「子ゾウがある程度の距離を引きずられたこと」を示しており、骨折がないのは、子ゾウが溝に落とされたのではなく、注意深く置かれたことを示唆しているという。

リドル氏は、打撲傷は子ゾウが引きずられた証拠である点には同意しているが、骨折がないのは必ずしも注意深く置かれたことを示しているわけではないと考えている。「子ゾウが引きずられ、上下逆さまに置かれ、ほかのゾウが土を踏み固めたのだとしても、骨に影響があるとすればかすかに肋骨にヒビが入る程度であり、判断は難しいかもしれません」

他にも目撃情報が

リドル氏がアジアゾウ専門家グループにゾウの埋葬行動について尋ねたところ、誰も目撃したことがなかったという。「これはどうやら、インド北東部の茶畑に特有の行動であるように思われます」

しかし、論文が発表された後、著者らには、引退した森林局管理官や農園管理者から、過去にも同じように埋葬されたところを見たという報告が寄せられている。

インドの非営利団体「共存コンソーシアム」の責任者アリトラ・クシェトリー氏も、論文に登場する現場のひとつであるニュー・ドゥアーズ茶園を含むベンガル地方北部で、同様に埋められた子ゾウを目撃したと語る。

ある場所では、母ゾウが死んだ子ゾウを一日中運び続けていたという。そして翌朝、氏は「子ゾウが脚を上向きにした姿勢で埋められている」のを発見し、周囲にはゾウの足跡がたくさんついていた。

「状況証拠は、これら一連の出来事が単なる偶然ではないことを示しています」と氏は言い、ゾウたちが子ゾウをあの姿勢で置いたことは明らかだったと付け加えた。

もし子ゾウが溝に落ちたのだとすれば、「頭から先に落ちて、前脚が溝に入り、後ろ脚は斜面にかかる形になるでしょう」と氏は言う。

さらなる証拠を

しかし、スクマール氏もリドル氏も、ゾウが子ゾウをわざとあの姿勢で置いたことには疑念を抱いており、何が起こっていたのかを示す写真などの確かな証拠を見たいと思っている。

「1頭か2頭がこうした状態で見つかることはあるでしょう」とスクマール氏は言う。しかし、「すべて別々の群れに属していた子ゾウが5頭、これほどの短期間に、同じ姿勢で埋められているのが見つかるのは奇妙です」

両氏は、論文の報告内容を否定しているわけではない。

リドル氏は言う。「動物というのは概して、まったく予想外の行動をとるものですから」

文=Laurel Neme/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年6月6日公開)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。