国内最大の発電会社JERAは8月1日、千葉県市原市で液化天然ガス(LNG)を燃料とする五井火力発電所1号機を稼働した。出力は78万キロワット。11月に2号機、2025年3月に3号機も稼働する予定で来春までに計234万キロワット分(約580万世帯分の使用電力に相当)の火力が稼働する。
五井火力はJERAのほかに、ENEOSホールディングス(HD)、九州電力も出資する共同出資会社が工事、運営を担う。出資比率はJERAが60%、ENEOSHD33.3%、九州電力が6.6%。従来、JERAは1社単独で運営する火力が多かったが、共同出資すれば「投資リスクの軽減につながる」(同社担当者)。
21年から毎年、火力を建設
「五井火力は合計出力が旧発電所から50万キロワット近く増えたが、二酸化炭素(CO2)排出量は年間110万トン削減できる」
JERA担当者は新設した五井火力についてこう話す。東芝製の蒸気タービン、米GEベルノバ製のガスタービンを使用した最新鋭の五井火力の発電効率は約64%と世界トップクラスだ。18年まで同じ場所で稼働していた旧五井火力1〜6号機(出力計188.6万キロワット)の効率は42〜46%で、ここから大幅に改善した。
発電効率が高まると、燃料として使うLNGの量を少なくでき、CO2排出量も減らせる。
21年から毎年のように火力を建設してきたJERA。同社が4年で整備する火力の出力規模の合計は731万キロワット(約1800万世帯分の使用電力に相当)に上る。原子力発電所にして7基分の規模だ。
だが、五井火力はその4年間の「最後」の火力になる。次に検討するのは、早ければ29年の稼働を目指す知多火力7、8号機(愛知県知多市)だからだ。五井火力の4年後だ。
JERAの25年以降の建設計画が落ち着きをみせるように、全国でも同年以降、新増設する火力は減少する。資源エネルギー庁によると、全国で25年を境に休廃止する火力の規模が新増設する火力の規模を上回る見込みだ。この結果、27〜33年度に24年度比で約200万キロワット分の火力が減少するとみられている。
稼働から40年以上経過すると老朽火力などと呼ばれ、新しい発電所に建て替えられるが、最近では、企業の投資意欲が減退、リプレース(建て替え)しない場合もある。その結果、全国で電力が逼迫するケースが増加。21年冬や22年夏には、休廃止を見越して長期計画停止期間に入っていたJERAの姉崎火力5号機(千葉県市原市)を一転、稼働させる事態になった。
姉崎5号機は稼働から45年が経過した老朽火力。スイッチ1つで稼働できるわけではない。稼働するとなると、ガスタービンだけでも数万点に上る部品について、品質管理を徹底させなければならない。いったん計画停止した巨大な発電所を再稼働させるのは容易でない。
「数年で1兆円超の投資」
ウクライナ危機や脱炭素化の意識の変化など世界情勢が揺れ動き、巨額投資の経営判断も難しくなっている。1基で投資額が2000億円を下らない火力発電所。それでも、JERAがこの数年で投資をした火力は「総額1兆円を超える」(同社首脳)。
原発の稼働がままならない中、日本で主力電源と位置づけられているのが火力だ。その火力が減少する中、全国で増加が見込まれるデータセンターと半導体工場が電力の供給不足にさらに追い打ちをかける。
資源エネ庁によると、データセンターと半導体工場の増加によって最大需要電力は33年度には537万キロワット増える見込みだ。
「再生可能エネルギーを増やすほど、その分、火力の重要性が増す」(大手電力関係者)。発電が天候に左右される再生エネの不安定性を補完するのは火力。しかし、主力電源でありながら、再生エネなどに比べて国の支援制度は少ない。投資促進に向け、国のさらなる後押しが必要になる。
(日経ビジネス 中山玲子)
[日経ビジネス電子版 2024年8月30日の記事を再構成]
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