二子山西岳でイワウラジロの生育状況を調査する「小鹿野の石灰岩地域の植物保護を考える会」メンバーら=埼玉県小鹿野町で2024年6月7日午前、照山哲史撮影
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 クライミング名所の二子山(埼玉県小鹿野町、標高1166メートル)に自生するシダ類「イワウラジロ」が危機的な生育状態に陥っている。岩場へのアクセスルート整備のために行われた樹木伐採で生じた環境激変などが原因とみられる。種の保存法で国内希少野生動植物種に指定されており、研究者らが昨年から保護に向けた取り組みを始めたが、想定通りには進んでいない。同法に基づく手続きが滞っているからだ。

 イワウラジロは、国のレッドデータブックで近い将来野生での絶滅の危険性が高い絶滅危惧ⅠB類にリストアップされている。県内のほか、東京都、群馬県内の石灰岩地の岩場に生息。成熟した株は全体で50株程度とみられ、深緑色の葉の裏が銀白色なのが特徴だ。

 二子山には西岳と東岳の二つの峰があり、そのどちらにも自生している。小鹿野町が進める「クライミングによるまちおこし事業」の後押しもあって発足した「小鹿野クライミング協会」がルート整備などを目的に2020年夏以降、山林を伐採。周辺の自生地は日照変化で高温・乾燥化が進み、その株は激減している。

 地元保護団体「小鹿野の石灰岩地域の植物保護を考える会」の調査では、20年の伐採地周辺(西岳)では、23年春から秋にかけて確認された31株が今年9月時点で22株に。22年の伐採地周辺(東岳)では、昨年8株あったのが今年度は1株しか確認できず、それも枯れる恐れが高い状態という。

二子山東岳で2023年11月に行われた国立科学博物館によるドローンを使ったイワウラジロの生育調査=国立科学博物館提供
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 考える会は昨年6月、シダ類の研究で知られる国立科学博物館(東京都)の海老原淳・研究主幹に相談。同8月には、環境省や県、小鹿野町、協会の担当者らも交えた話し合いで、環境状況から現地保全を図るのは困難なため、「採取した葉にある胞子を別施設で培養する『域外保全』を行う」(海老原さん)と決めた。

 種の保存法は指定動植物の採取を原則禁止しており、目的が研究や保全などの場合、環境省の許可が必要だ。海老原さんは同11月、関東地方環境事務所に関係書類を送ったが、手続きはそこから進んでいない。

 採取予定地は、複数の個人や企業の所有地になっている。環境省が許可を出すには地権者の承諾が必要になるが、個人情報の扱いなどがネックになり手続きが難しい場合があるという。

 同環境事務所野生生物課は「個別事情は明らかにできない。ただ、採取場所が民有地の場合は、個人情報の扱いや地権者の意向もあり、ハードルが高くなるケースもある」と話す。

 海老原さんは「遅くとも今季中には採取の許可が出ると思い、昨年秋に手続きを始めた。指定植物でなければすぐに保全措置が取れたはずで、種の保存法が機動的な研究の障害になっている。胞子を取るには、今月中が限界だと思う。できるだけ早く作業にかかりたい」としている。考える会は「(許可が)来季に持ち越されれば自生地の株は消滅するだろう」と話し、環境省に早期の対応を求めている。【照山哲史】

国内希少野生動植物種

 1993年に施行された「種の保存法」で、国のレッドリストに掲載された絶滅危惧種Ⅰ、Ⅱ類のうち人為的影響で生息・生育に支障を生じているものから環境省が指定する。2024年2月現在448種で、うち植物は206種。個体の捕獲・採取や譲渡などは原則禁止される。イワウラジロは20年に指定された。

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