白い雪原のような幻想的な光景に見えるかもしれません。でもここは水深8メートルの海中です。「ヒトスジギンポ」がちょこんと乗っているのは、白いサンゴの上。硬い骨格を持つテーブル状のハードコーラル(硬質サンゴ)で、「エンタクミドリイシ」と呼ばれます。
エンタクミドリイシの本来の色は茶褐色。真っ白なのは、近年よく聞くようになった高水温による「白化現象」のためです。2024年の夏も記録的な暑さで、海中の生態系にも影響を与えました。
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サンゴの色は、共生する「褐虫藻」の色素によります。褐虫藻は、植物プランクトンの一種で大きさは100分の1ミリほど。サンゴは、夜に触手を伸ばしプランクトンなどを捕らえますが、主に褐虫藻が昼間に光合成で生み出す栄養分を受け取って生きています。
ところが環境の変化などでサンゴがストレスを受けると、褐虫藻はサンゴの体内から逃げ出してしまいます。水温28度ぐらいを超えると去り始め、サンゴの骨格だけが透けて白く見える状態に。これが白化現象で、サンゴは栄養不足に陥り、弱って苦しんでいる状態です。一見白くて美しいものの、実は「死に化粧」なのです。
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この写真を撮影したのは10月半ば。海域のあちこちで白化サンゴが目立っていました。高知県・柏島の地元ダイバーによれば、8月から水温が急上昇し、白化が始まったそうです。
国内最大のサンゴ礁「石西礁湖」や、沖縄本島などでも大きな被害が出ました。環境省は9月に実施した石西礁湖の調査で、84%のサンゴが白化したと発表。沖縄県で人気の観光地、恩納村の「青の洞窟」や「万座毛」などを8~10月に訪れたヒトは、断崖の上からのぞき込むだけで、海底が白いことに気づいたことでしょう。
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とはいえ、実は水温が下がれば褐虫藻は戻り、サンゴも息を吹き返します。白化状態のまま耐えられる期間は約1カ月。長く続くとサンゴは死んで表面にコケなどが付着し、本体が崩れて海底のガレキになります。
白化は、感染症や低水温でも起きるものの、大半の原因は高水温です。かつては水温が30度に迫ることは、赤道付近の熱帯海域ですらほとんどなかったのです。
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今年は本州や四国の太平洋側に台風の接近が少なかったことも、この海域の白化に拍車をかけました。
大きな災害をもたらす台風はヒトにとって好ましいものではなく、サンゴも大波で破壊されることが少なくありません。でも、海水を広範囲にかき回すことで海水温を下げたり、南方から新たな生き物をもたらしたりする効果もあるのです。
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この撮影のときの水温はピーク時から少し下がって26~27度。でも、すでに死んでコケに覆われたサンゴも少なくありませんでした。その後、季節の推移により水温は下がり、11月初旬現在で24~25度とのこと。このエンタクミドリイシが茶褐色に回復していればよいのですが。(高知県大月町で撮影)【三村政司】
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