北海道大学の近藤亨教授らは治療が難しい脳のがん「膠芽腫(こうがしゅ)」向けの新薬候補を開発した。がん組織を作る能力が高い「親玉」の細胞を狙い撃ちできる抗体に抗がん剤を結合して投与する。マウスを使った実験でがんの縮小効果を確認した。今後は抗体の構造を改良して実用化を目指す。

薬剤を投与したマウスの脳内の顕微鏡写真。オレンジ色の部分で膠芽腫幹細胞が細胞死を起こしている=北海道大学の近藤亨教授提供

膠芽腫は脳内のグリア細胞から発生する最も悪性度の高いがんだ。治療の難しいがんの代表例で、診断から1年程度で患者の半数が死亡するとされる。がん細胞の親玉となる膠芽腫幹細胞は多くの抗がん剤や放射線治療に耐性を持ち、治療しても再発しやすい要因とされる。

研究チームは新型の薬剤「抗体薬物複合体(ADC)」を膠芽腫向けに開発した。ADCは抗がん剤と、がん細胞の目印となる分子にくっつく抗体とを組み合わせる。抗がん剤ががん組織に集まりやすいため、効果が高く副作用も抑えられる。

研究チームは以前、膠芽腫の親玉細胞に多く存在するが他の組織の細胞にはあまりみられない分子を見つけた。今回、この分子に結合する抗体を作り、親玉細胞に効く抗がん剤と結合させた。親玉細胞を移植したマウスに投与するとがん組織が小さくなり、マウスは投与から約60日たっても死ななかった。異なる構造の抗体を使ったADCでは効果がみられず、全てのマウスが約40日で死んだ。

今回はマウス由来の抗体を使った。今後抗体の構造をヒト由来のものに近づけられれば、患者に投与してもアレルギー反応を起こしにくくなり実用化しやすくなる。膠芽腫の親玉細胞の持つ分子は膵臓(すいぞう)がんや肺がんなどでも見つかっており、応用できる可能性がある。理化学研究所との共同研究で、国際医学誌「ニューロ・オンコロジー」に論文が掲載された。

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