11月の大統領選に向けてバイデン陣営もTikTokを使い始めた PHOTO ILLUSTRAION BY NATALIE MATTHEWS-RAOMO/SLATE, BIDEN-HARRIS HQ (@BIDENHQ) ON TIKTOK, ZINETRON/ISTOCK

<安全保障上の懸念があるとして、米下院がTikTok禁止法案を可決した。だが未来を担うZ世代に絶大な人気を誇った動画投稿アプリは、別の理由から衰退し始めている>

今は違うかもしれない。だが、過去5年にわたり世界のポップカルチャーから政治まで大きな影響を与えてきた中国発の動画投稿アプリTikTok(ティックトック)が、ついに下降期に入ろうとしているようだ。

その兆候は至る所に見られる。最近では、音楽大手ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)が、所属アーティスト(テイラー・スウィフトやJ・バルヴィンらヒットメーカーが大勢いる)の楽曲提供を打ち切ったため、TikTokの無数の投稿から音楽が消えた。

TikTokはこの1年、新規ユーザーの獲得にも苦労してきた。昨年登場した通販機能であるTikTokショップは広告だらけで、ユーザーからは大ブーイング。AIを使った迷惑メッセージや偽情報の拡散、そして自らの顔を否定するような「加工フィルター」への不安も聞かれる。

似たようなコンテンツが多すぎるとか、「おすすめ検索ターム」が人為的に流行を生み出しているという批判もある。怪しい「健康」情報を広めるインフルエンサーの問題点を指摘する声も多い。

TikTokの運営会社も、各国で人員削減や性差別訴訟に揺れている。とりわけこの訴訟は、業績にダメージを与えるとともに、時価総額の大幅な減少をもたらした。

一方、11月に次期大統領選を控えるジョー・バイデン米大統領は、若者にアピールするためにTikTokを始めたが、その動画は身もだえするほどダサい──。

TikTokは死にかけているわけではない。だが、従来の空気感を台無しにする変化が起きていることを、ユーザーは感じ取っている。

それでも、ショップの収益が業績に与える影響が拡大するに従い、TikTokは定額サービスや、長い動画を投稿できる有料会員システムの導入を進めるだろう。

その背景には、依然として莫大な広告収入を得ているものの、広告業界でTikTokの評判が芳しくないという事情がある。これはTikTokの地政学的な影響力への懸念が関係しているようだ。

バイデンも「参戦」したが

TikTokが政治家のイメージアップに大きく貢献していることは、最近のフィリピンやアルゼンチン、そしてインドネシアの選挙で、強権的な政治家が親しみやすいイメージを打ち出して勝利を収めたことからも分かる。

アメリカの政治でも、TikTokは危うい役割を果たしている。ジョン・フェッターマン上院議員ら一部の政治家は、かつてはTikTokで地域の若手活動家たちを取り込もうとしていたが、今はTikTokがそうした活動家たちを、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの手先にしているという、根拠のない主張をしている。

ちょうど1年ほど前は、超党派の対中強硬論者らの要求が強まり、TikTokの禁止が今にも現実になりそうだった。だが、インフルエンサーらの激しい反発を受け、バイデンは禁止を思いとどまるどころか、自らも選挙活動に利用することにした。

(編集部注:だが結局、米下院は3月13日、TikTokは「敵対国からの安全保障上の脅威」だとして、運営会社バイトダンスが180日以内に米国内での事業を売却しなければアプリ配信などを禁止するという法案を可決した。法案は上院に送られる)

ただ、もはや若者におけるTikTokの人気は、ピークを越えたという指摘は多い。確かにTikTokは、今も文化的に巨大な影響力がある。ここ数カ月だけでも、高級トートバッグをはやらせたり、みかんの皮の剝き方に性格が出るという説を試す動画が大ブームになった。

だが、TikTokは今も、世代によるユーザーの偏りが大きすぎる問題を抱えている。なにしろアメリカのZ世代では62%がTikTokを利用しているが、30歳以上では25%以下に落ち込む。

失われる自由奔放な魅力

その一方で、フェイスブックやインスタグラム、X(旧ツイッター)などの老舗アプリは、TikTokの人気機能をどんどん取り入れている。YouTubeは、UMGがTikTokへの楽曲提供をやめた衝撃に乗じるかのように、短い動画にミュージックビデオをリミックスして投稿できる機能を追加した。

TikTokが爆発的な人気を集めたのは、こうした老舗ソーシャルネットワークでは満たされないニーズに応えたからだ。それなのに現在のTikTokは、自らの価値をわざわざ下げる戦略を取っているように見える。

グーグル検索が広告まみれであることは、誰もが知っている。だからZ世代はTikTokの検索機能を一番使ってきたのに、TikTokは「おすすめ検索ワード」などという機能を追加して、シンプルな検索をしにくくした。

音楽配信サービス、スポティファイの独特のアルゴリズムと最近の大幅な人員削減は、ユーザーが新しい音楽を発見するのを難しくした。TikTokにとってはチャンスだが、UMGとの契約打ち切りで、ユーザーが自由奔放に音楽を使うのは難しくなった。

広告だらけのインスタグラムのフィードに対して、ユーザーの楽しい動画が次々と表示されるTikTokのフィードは大きな魅力だった。それが今は、TikTokのフィードも広告だらけだ。

今はどのオンラインサービスも、AIによってユーザーが熱中しやすいように調整されている。だが、そのせいでTikTokでは、偽情報や極右プロパガンダが拡散しやすいエコシステムを確立されつつあるのかもしれない。

もしかすると、来年の今頃にはこうした問題点が全て是正されて、TikTokは再び世界制覇への道を歩んでいるかもしれない。だが、厳しい目で見れば、TikTokはイノベーションのピークを越えた可能性が高い。

今、私たちが考えるべきなのは、TikTokがこれからどうなるかではなく、次は何が登場するかだ。

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