電気自動車の稼働を支えるには、充電施設が必要だ。大型トラックの電動化を進めるには、どれだけの充電ステーションが必要だろうか?

 アマゾンとフラウンホーファー研究機構の共同研究によると、ロケーションを最適化することでステーションの数は従来予想より少なく済むらしい。それよりも、大型車用にメガワット級の大電力に対応した充電器を開発することが重要になるようだ。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus

トラックの電動化に必要な「充電ステーション」の数は?

2024年7月19日、ドイツのMANトラック&バスは、公共の充電ステーションで初めて1000kWオーバー(700ボルト・1500アンペア)の大電力での大型トラックの充電に成功した

 内燃エンジン車の運行にガソリンスタンドが必要なように、バッテリーEV(BEV)の運行には充電ステーションが必要だ。現状では、BEVはエンジン車より航続距離が短く、充電インフラの整備に膨大なコストがかかる。走行距離の長い長距離輸送用トラックなら猶更だ。

 欧州連合(EU)の「グリーンディール」は、全産業に温室効果ガスの削減を義務付けているが、貨物輸送の脱炭素においてBEVは最も有力な手段とされ、2030年までにEU域内ではBEVトラックのシェアが最大50%に達すると予想されている。ただし長距離トラックは、EUの想定でも15%にとどまる。

 課題となっているのはやはり充電インフラで、長距離輸送を電動化するには公共の充電ステーションが欠かせない。

 また、ステーション以上に重要なのが規格策定中の「メガワット充電システム(MCS)」など、大型車用の充電規格となる。商用車の運行には休憩時間の義務があり(これは日本も同じ)、「法定休憩時間中に充電できる電力量」によって、実際の航続可能距離やBEVで可能な業務が大きく変わるからだ。

(ちなみに日本では「430休憩」(4時間の連続運転につき30分以上の休憩)だが、欧州は4.5時間の運転につき45分の休憩がトラックドライバーの義務となる)

 EU加盟国は高速道路に一定間隔(50~100km)でステーションを整備することを想定している。この方法で2030年までに長距離輸送の15%を電動化するには少なくとも9000か所のトラック用充電ステーションが必要になるという(法定休憩時間中の充電のみで運行した場合)。

 より効率的に電動化を進めるには、充電器の設置場所を最適化した「最小の」充電ネットワークを定義することが重要になっている。

 幸い(?)、大型車を駐車可能なスペースは限られており目的地もほとんどが物流施設などになるため、シミュレーションを行なう場合に不可欠な出発地・目的地のペア(ODペア)は乗用車より相応に少ない。このため、商用車の充電ネットワークは需要に基づいた最適化が行ないやすい。

 この度、EC大手のアマゾンとドイツのフラウンホーファー研究機構が共同で実施した研究によると、メガワット充電器を最適に配置することで、長距離トラックの電動化で必要とされる充電ステーションの数は、従来考えられていたより大幅に少なくなるかもしれない。

わずか1000か所のステーションでほとんどのトラックをカバー

BEVトラックの航続距離はディーゼル車より短く、長距離輸送はほかの輸送分野より電動化が難しい

 分析にはODペアのほか、充電ステーションの候補地やトラックの移動距離・時間に関するデータなどが必要だが、パブリックに入手できる情報のみを用い、ロケーションを最適化するアルゴリズムは、アマゾンがオープンソースで実装しているツール(CHALET)がGitHubで公開されているので、これを利用した。

 レポートによると、欧州の想定(2030年に長距離トラックの15%が電動化)なら、ロケーションを最適化し、MCSに対応した充電ステーションを1000か所に設置すれば、EU全土の長距離BEVトラックの91%をカバー可能という結果になった。

 トラック用の充電ステーションに関しては、EU加盟国ごとに最小目標値が設定されている。例えばドイツなら300か所で、EU全体としては2030年まで2000か所が必要とされる。しかしながら、長距離輸送を電動化する際にどれだけの充電施設が必要になるのか、正確なところはわかっていない。

 わずか1000か所で長距離BEVトラックの91%をカバー可能という結果は意外なもので、充電器の設置場所を最適化することで実際に必要となるインフラはEUの最小目標よりはるかに少なく済み、コストを圧縮できる可能性を示している。

 また、この研究ではデポ(運送会社の駐車場や荷役施設)での充電を考慮せず、公共インフラのみを対象にしているため、実際にはもっと少なくなる可能性もある。

 車両は航続距離500kmのBEVトラックに対して「電欠」を防ぐための安全マージンとして100kmを設定し、1充電当たりの走行距離が400kmを超えないこととした。これは2024年時点で欧州で市販されているBEVトラックのスペックと一致しており、バッテリー技術の向上は前提になっていない。

 なお、研究は充電ステーションが扱うことのできる電力量を考慮していない。実際にメガワット級の充電器を複数同時に作動するには送電網等を強化する必要がある。

大型トラックでは充電器の高出力化のほうが重要

充電ステーションの最適配置とメガワット充電システム(MCS)の実用化により、従来よりインフラコストを圧縮できそう

 車両の航続距離を900kmとしても(安全マージンにより実際の走行距離は最大800km)、必要なロケーション数は少なくなるものの、カバー率はほとんど変わらなかった。いっぽう充電器の出力(650kWと1000kW)は大きな影響を与えることがわかった。

 電気自動車用の充電インフラが限られる中で、乗用車用と商用車用を兼用として充電ステーションの数を増やし、BEVのカバー率を向上することも考え方の一つではあるが、今回の研究から言えるのは、大型トラック用は大電力を扱える専用規格とした上で、需要に基づいて最適な配置を行なったほうが、限られた予算の中で最大の結果をもたらすということだ。

 レポートの著者の一人でフラウンホーファー研究機構のパトリック・プレッツ博士は次のように述べている。

 「これらの結果から、トラック輸送の電動化に際して、EUのインフラ負担は想定より少なくなる可能性があります。ただし、一部の地域に需要が集中するため、電力網を強化する必要があります。中にはMCSに対応した充電器を20基備え、12メガワットの電力供給を求められるステーションもあります。

 したがって、商用車の電動化を進めるには電力グリッドにも相応の変革が求められます。とはいえ、欧州の一部の政府は、すでにそのための取り組みを進めています」。

 博士は結論として、BEVトラックの受け入れを欧州で推進するにはMCSに対応した充電施設を、戦略的に(最適な地域に)導入する必要があるとしている。

 「業界はMCSをはじめとする大電力での充電システムの開発を急ぐ必要があります。中小の事業者にとっては公共インフラが重要となるからです。MCSが商用化されれば、インフラ投資や用地取得などBEVトラックの総保有コストに関する複雑性が解消し、コスト最適化を進めることができます」。


 もちろん将来的には市場競争に任せることも必要だが、商用車の電動化で出遅れてしまった日本としては、海外事例を参考に、コスト効率に優れた方法で戦略的に輸送部門の脱炭素を進めていくことも重要になりそうだ。

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