3ドアや5ドアハッチからバンまで多彩な全9モデルをラインナップしながらも、モータースポーツシーンではマイナーツーリングで日産 サニーとバトルを繰り広げ、富士フレッシュマンレースのKP61クラスでは多くのエントリーを集めた名車“KP61スターレット”をプリウス武井が全開試乗!! 軽量FRって、こんなに楽しいのかぁぁぁぁ!!!!!!

※本稿は2024年8月のものです
文:プリウス武井/写真:中島仁菜
車両協力/MGB CREATIVE
初出:『ベストカー』2024年9月10日号

■「ボーイズレーサー」ってご存知ですか?

1978年2月登場のトヨタ スターレット(2代目・KP61型)。初代のパブリカ・スターレットから独立し、「スターレット」となったのはこの代からだ

 今ではほとんど使われなくなった業界用語のひとつ「ボーイズレーサー」だが、その元祖といえばKP61型の2代目スターレット。今回は、若年層にも継承しておきたい昭和を代表する名車のインプレッションを展開したい。

 KP61の愛称で親しまれた第2世代が発売されたのは1978年2月。初代はパブリカ・スターレットとして歴史がスタートしているが、完全に独立したモデルになったのはKP61から。

 3、5ドアの2ボックスハッチバックとバンまで、商用ベースから乗用、スポーツカーと、さまざまな用途に合わせた多彩なモデルがラインナップされた車種でもある。

 自動車が特別な存在ではなく誰でも所有できる時代に入り、各メーカーも車両価格を抑えるため小型車は製造コストを削る工夫として前輪駆動に移行していたが、KPはFR駆動を選択。

 見た目は可愛らしくコンパクトなスタイルだが、全モデルにラック&ピニオンのステアリングギアボックスや前輪ディスクブレーキが標準装備。

 優れたハンドリングと安定した走行性能は今でも特別な絶版車といっても大袈裟ではない。

 特に今回紹介するSグレードは、サスペンションが強化されたKP61の中でもスペシャルなモデルである。

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■とても45年前のクルマとは思えないんですが…

今回試乗させていただいたのは東京都町田市に拠点を置くMGBクリエイティブが販売する中古車

 インプレッションする個体は、東京・町田市に拠点を置くMGBクリエイティブが販売中の中古車。

 エンジン内部はノーマルだが、キャブをミクニ製ソレックスに変更し、エキゾーストマニホールドとマフラー、サスペンションなどを変更。

 車体全体はオールペンされ、昭和時代のお手本のようなチューニングが施された希少な個体だ。1979年式なのだから、誕生してからすでに45年も経過している。

 ドアを開きシートに身体を収めると、前方視界の広さに気づく。ガラス面が大きく死角が少ないのでタルガトップのような開放感すらある。

 蒸し暑い真夏の熱気の中、イグニッションキーをオンにしてセルを回した。湿気の多い季節だというのに始動性は悪くない。キャブ調整はとても難しいが、しっかりメンテナンスしてある。

 軽くブリッピングすると、独特な吸気音とともに乾いたエキゾースト音がマフラーから放たれる。まるで競技車だ。

 夏の暑さとハートがざわつくレーシングサウンドで、インプレッション前から全身が汗だく状態でクラッチを踏みギアを1速に入れる。

 KP61のマニュアルシフトは4速と5速がラインナップされていたが、この個体は5速。クラッチペダルはスポンジのように抵抗感なく軽い。

 ペダルを離すとエンジンがストールすることなく素直に動き出す。走り出してしまえば全開にした窓から風が吹き込み、汗に濡れた体は気化熱で涼しくすら感じた。

 ノーマルサスから車高調に変更されたサスペンションは、とてもしなやかでゴツゴツした嫌な硬さもない。

 車高が落ちていることで旋回姿勢において、ステアリングの舵に対しフロントタイヤの接地感が手に取るように伝わり、タイヤの限界域がわかりやすい。

 狙ったポイントにノーズを向けられる感覚はワイディングでも楽しいはずだ。

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■自在に加減速できるのは軽量な車体のメリット

もちろんABSなどはついていないが、加減速を自在にコントロールできるのは軽量な車重ならでは。短いブレーキングで減速できるのはサーキット走行でも有利だ

 高速道路の本線に合流する加速車線で床が抜けるんじゃないかと思うほどアクセルを踏み込んだ。タコメーターがパワーバンドまで跳ね上がったところでシフトアップ。

 NAらしいフラットな加速感は、ドライバーがクルマの性能を余すところなく引き出せる喜びに満ちている。

 正直、隣街まで行くのに1日かかりそうな鈍足なカメかと思っていたら、意外な瞬発力で拍子抜けした。車両重量が軽いメリットはこういうところで発揮されると実感させられる。

 スピードスターMK-IIIホイールをあえて標準インチサイズにしているところがバネ下の軽量化に効いている。

 エキゾーストやサスペンションなども社外品に交換したことで、全体的に車重が軽減されたこともパフォーマンスに貢献しているのもポイントだ。

 軽量なのは制動性にもメリットがあり、比較的高いスピード域からでも難なく減速してくれる。急な渋滞でのパニックブレーキにおいても踏力に対してすぐに反応して、進歩した現代のクルマと比べても問題ないレベルで止まる。

 ABSなんてないけど、自在にコントロールできるのは軽量な車重だからだ。短いブレーキングで減速できるのはサーキット走行でも威力を発揮するだろう。

 もうひとつの特長は、FRであること。まずハンドリングがいい。前輪駆動では加減速時のトルクステアに悩まされるが、とにかくコントロールがしやすい。

 高速安定性も抜群で、小さな車体なのにどっしりした感覚。高速走行においてもステアリングの修正は軽微で、長い距離を走っても疲れない。

 Sグレードの新車価格は約84万円。日本銀行の消費者物価指数を調べてみたが、当時でも比較的リーズナブルな価格。

 年月を重ねた日本車がここまで価値が上がるとは1ミリも思わなかったが、KP61スターレットは後世に残すべき名絶版車だ。

 ちなみに予定を合わせたわけではないが、奇しくも8月17日には富士スピードウェイでJAF公認レースとして「富士マイナーツーリング2024」が開催された。TS仕様のエキゾースト音は最高だよ!

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■4K-U型エンジン探索

永きにわたりトヨタを支えたK型エンジン。中でもKP61に搭載された4K型はモータースポーツで活躍し、多くのドライバーやチューナーを育てた

 K型エンジンは1966年から2011年まで製造されトヨタ車を支えた。特にKP61に搭載された4K型はモータースポーツで活躍。

 コンパクトな4気筒エンジンは72psと今では非力だと思うが、エンジン出力以上に力強くパワー感がある。

 Sグレードの車両乾燥重量は710kgだが、スタンダードモデルは695kgと15kgも軽い。馬力当たりのパワーウェイトレシオは9.7kg/psとエンジン出力以上のパフォーマンスは魅力的だった。

 エンジン内のバランス取りをすることで驚くほどの瞬発力を発揮し、マイナーツーリングはもちろんワインメイクレースにおいてもチューナーを育ててくれた素晴らしい名ユニットだ。

●1979 TOYOTA STARLET S 主要諸元表
・全長×全幅×全高:3725×1525×1370mm
・ホイールベース:2300mm
・車両重量:710kg(乾燥重量)
・エンジン形式:水冷4気筒OHV
・総排気量:1290cc
・最高出力:72ps/5600rpm
・最大トルク:10.5kgm/3600rpm
・ミッション:5速MT
・駆動方式:FR
・サスペンション:前)ストラット式コイルスプリング 後)トレーリングリンク車軸式
・ブレーキ:前)ディスク 後)リーディングトレーリング
・タイヤ:前後165/60R13(標準145SR-13)

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