BMWから新たなプラグインハイブリッド車 XMが来た。LXを思わせる超巨体に4.4L・V8ツインターボエンジンのプラグインハイブリッドとモノスゴイスペックだ。このクルマ、ただデカいハイパワー車だけではなくBMWが旧来の慣習にとどまらず、未来へ突き進む覚悟が感じられた一台となっている。
※本稿は2024年8月のものです
文:テリー伊藤/撮影:西尾タクト
初出:『ベストカー』2024年9月26日号
■元気じゃないとクルマに負けちゃう!?
今回の取材で乗って、BMW XMは心身ともに元気でなければ乗れないクルマだとつくづく思った。
明日病院で検査があるとか、虫歯が痛いとか、食べ過ぎて胸焼けがするなど、少しでも弱気になる要因があるとクルマに負けてしまう。仕事も遊びも絶好調でなければ太刀打ちできない。それに細かいことを考える人も無理だ(笑)。
好き嫌いが明確に分かれるこのクルマ作りは、言うまでもなく確信犯だ。古くからのファンは「こんなクルマは俺が好きだったBMWではない」と嘆くだろう。
しかし、この「古くからのBMWファン」というのがクセモノなのだ。その多くはリタイアしているかその直前で、新車のBMWを買うおカネも気力もないというのが実際のところ。
BMW社としてはそうしたファンに感謝しつつも「次に行かなきゃ未来がない」という気持ちだろう。XMは、そんなBMW社の本音から生まれたクルマなのだ。
以前、新型アコードを取り上げ「オールドマネーの匂いがする」と書いた。数世代に渡って富を引き継いでいるのがオールドマネーで、一代で富を築き上げた若い富裕層がニューマネーという区切り方なのだが、当然、BMW XMはニューマネーの部類となる。
怖いもの知らずで野心にあふれ、勢いのある30〜40代のおカネ持ち。そんな人たちにBMW XMはよく似合う。そして、こういう肉食系のクルマもまた世の中には必要なのである。
万人に好かれることを目指していては、新しい産業は生まれないし、ノスタルジーに浸って古いものばかり重宝していても進化はない。人間の限りない欲望こそが新しいモノを生み出すというのも事実なのだ。
中庸は悪。BMW XMからはそんなメッセージが聞こえてくる。日本車にはないアニマルスピリッツにあふれたクルマで、それが最大の魅力なのだ。
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■若い富裕層が初めて買うクルマ
ここまでクルマの内容をまったく説明していなかった。BMW XMはV8、4.4Lツインターボエンジンを搭載するプラグインハイブリッド車である。BMWのEVによくある派手な顔つきだがEVではない。
走りはさすがBMWで驚くほどいい。パワフルなのはもちろん、足回りは硬いのに乗り心地がよく、走りに一体感があるからか、全長5110mm、全幅2005mmという巨大なサイズなのに、それほどまでの大きさを感じさせないところもある。
また、アクセルを離した時の減速感が気持ちいいことにも驚いた。EVやハイブリッドの回生ブレーキが気持ちいいと思ったのは初めてだ。何かBMW独自の「秘伝のタレ」のような技術でもあるのだろうか。
今回乗ったのは「レーベル」という上級グレードで価格は2420万円。高いのか安いのかよくわからないが、ラルフローレンのお店で発見した10万円のワイシャツに近いものを感じる。
さすがのラルフローレンも、ワイシャツで10万円というのは今までなかったはず。それが適正な価格かどうかではなく、BMWもラルフローレンもそういう値付けをしないと「やっていけない」ということなのだ。適正な価格かどうかを気にせずに買う人がいて、成立しているのである。
BMW XMは生半可にクルマの知識があると選びにくいクルマだ。一発当てた起業家や、投資で儲けた人たちが初めてのクルマとして買うケースも多いのではないだろうか。
あくまでも想像だが、そういう買われ方が似合うのは確かだろう。そしてそれは悪いことではない。焼肉だろうがペヤングソースやきそばだろうが、超大盛りをカロリー計算などしないでうまそうに平らげる人のためのクルマなのだ。
伝統にあぐらをかかず、チャレンジを続けるBMWは立派だ。デザイン自体は「?」な部分もあるが、それも力業で納得させる。BMW XMは絶好調でイケイケでなければ近づけないモーレツなクルマだった!
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■BMW XM レーベルの主要諸元
全長5110×全幅2005×全高1755mm、ホイールベース3105mm、車重2730kg。585ps/76.5kgmのV8、4.4Lツインターボエンジン+8ATを搭載するプラグインハイブリッド車で、システム出力は748ps/102kgmという過剰すぎる性能を誇る。
フル充電時のEV走行距離は105.6kmでWLTCモード8.5km/L。ベースグレードのXMは2130万円。
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