米・ミッドオハイオのテストコースで行われたNSXプロトタイプのテストドライブの様子をプロドライバー・自動車評論家の松田秀士氏がレポート!! その音、加速、挙動からわかったこととは!!?(本稿は「ベストカー」2013年9月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:松田秀士、ケニー中嶋/写真:ケニー中嶋

■加速はまさにV8、5L超級だ!(松田秀士)

トレーラーから搬出され、いよいよテストに臨むNSXプロトタイプ。この時すでにエンジンがかけられそのままコースインした

 2013年8月4日、米国はミッドオハイオレースウェイでついにNSXプロトタイプが走った。この日はインディカー・シリーズ第14戦が開催され、イベントタイトルにも「HONDA」の文字があった。

 オハイオはホンダにとって密接な場所であり、今後新たにNSXの製造工場を作り、現地での雇用を確保するという。そんな意味もあり、レース前にNSXプロトはミッドオハイオを走ったのだ。

 ボクはGAORA(ガオラ)というCS放送でインディカー・シリーズのコメンテーターを務めていて、現地からの生映像でNSXプロトタイプの走りを見た。

 そのシルエットは初代NSXを思い起こさせる。デトロイトショーの後たくさんの知人からもデザインがいいという評価を聞いていただけに個人的にも「かなり攻めたな」という印象だ。

エンジンをミドに搭載しフロントはインホイールモーターで駆勤されるため、フロントノーズが低く薄いことが特徴。空力は相当によさそうだ

 そして注目の走りはあまりにもスムーズ。いったい誰がドライビングしているのかわからなかったけれども、かなり完成の域に達していると見た。なぜなら放送のため一緒に走ったアコードクーペ3.5Lよりも明らかにコーナリング性能が高いからだ。当たり前だけれども。

 ドライバーの操舵に対してしなやかにサスペンションとボディが動いている。運動性能が高いだろうということと、運転しやすそうだなぁ、サーキットでタイム出そうだなぁ、ひと目でそんなクルマに見えた。

今回のテストはモーター走行を行なわず、エンジンドライブのみだったが、エキゾーストノートはかなりレーシーなものだった

 というのも、このモデルにはハイブリッド技術を駆使した4輪駆動のSH-AWDが搭載されている。実はこの技術を駆使したテストカーに試乗したことがある。昨年11月に行なわれたジャーナリスト向けのホンダミーティングという先進技術体験会で試乗したレジェンドがそれ。

 レジェンドはFFベースのクルマ。リアタイヤの駆動を左右2つのモーターで行ない、コーナリングでは外輪のほうを多く駆動する。

 紙コップを倒して転がすと円周の小さい底側を中心にして円を描くように回るが、それをアクティブにリアタイヤで行なってやることで驚くようなコーナーリング性能が手に入る。

 しかも外側のリアタイヤの駆動力は、内側のタイヤから繋がるモーターが引きずられることで発生する回生エネルギーを使って駆動しているのだ。本当か? と疑いたくなるほどの画期的なエコシステムだ。

インディカー・シリーズ第14戦が行なわれたオハイオ州ミッドオハイオ・スポーツカーコース1周2.4マイル(3.86km)を2周走った。コンセプトカーよりもフロントガラスが立っていることがわかる

 しかしNSXのほうは見るからにエンジンを車体の中心に置くミドシップ。エンジンの駆動はほぼ後輪に充てられる。つまりレジェンドのシステムを逆にしてフロントタイヤの駆動を左右分離した2つのモーターで行なっている。

 しかも、フロントを駆動するモーターは左右輪の中に埋め込まれたインホイールモーターなのだ。インホイールモーターは直接ホイールを駆動するからドライブシャフトも要らない。

テスト車のタイヤサイズはフロントが245/35ZR19でリアは295/30ZR20だった。ホイールはHREパフォーマンスホイール社製だった

 そのため前輪の切れ角を大きく設定できるので小回りも利く。しかも、モーターを置くためのスペースも省略できるのでデザインの自由度が広がる。NSXのカッコよさはそんなことからもきているのだ。

 ただし、バネ下荷重が大きくなるので、ハンドリングが悪化しやすい(見たところそうでもないが)。また、通電のためのハーネスが車輪と一緒に動くので耐久性の問題もある。これらのハードルを技術のホンダがいかにしてクリアするのか? ということも見どころではある。

 とにかく、蓋を開けてみないとわからないけれども、運動性能はそうとう高そう。リチウムイオン電池は床下に低く敷き詰められているのだろうから低重心なのだろう。

 あっ! エンジンについて書くのを忘れていた! V6の直噴ターボだろう! F1マシンと同じにするはずだから当然だ。

 今回モーター走行はなく、エンジンだけのドライブだったが、その排気音もなかなか活発で期待できそうだった。

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■松田秀士の目がとらえたこと

・ドライバーの操舵に対してサスペンションの動きはとてもしなやかに見える
・フロアに敷き詰められているであろう、リチウムイオン電池が低重心をもたらし、コーナリングが安定している
・今回はエンジン走行のみだったが、そのエンジン音はかなりの迫力
・シフトダウン/シフトアップのスムーズさからDCTの完成度も高そうだ
・想像よりもアグレッシブなスタイリングはフロントのインホイールモーターのおかげ

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■ミッドオハイオからの生レポート(ケニー中嶋)

フロントヘッドライトはLEDではなくHIDになり、グリル部分もコンセプトカーとは別物になっている。低くワイドでかっこいい

 2015年発売予定の次期NSXの初期プロトタイプが初の公開走行を行なったのは8月4日に行なわれたインディカー・シリーズ第14戦の決勝レース直前に行なわれたデモランで、選手紹介が始まった頃、ピットへのアクセスロードに止められた1台の白い無印トレーラーのリアゲートが開き、エンジンがかけられた状態のNSXが姿を現わした。

 そのままコースインしたNSXは、選手を載せてパレードラップへと向かうS2000の隊列の脇を抜け1周2.4マイル(3.86km)のコースを2周、晴れやかに公衆の面前を駆け抜けた。

 フロントのライトブルーから、リアのアキュラブルーと呼ばれる紺色へと、グラデーションが流れるようなボディカラーと「NSX」のロゴをカムフラージュ風に散りばめたグラフィックが配されている。

リアは比較的コンセプトカーのデザインを踏襲しているが、排気マフラーは左右2本出しからセンター2本出しになっている

 スタイリングもひと目で、これまで見てきたコンセプトカーとは明らかに異なることが見てとれる。現実的な居住性を確保するためか若干フロントガラスが立ち、ガラスエリアもわずかに広くなっているように見える。

 コンセプトモデルではLEDだったヘッドライトもHIDタイプに、バックミラーもより大型な量産タイプに変更されており、ホイールもHREパフォーマンス社製をはいている。

 当初ハイブリッド車であることをアピールするため、モーターでの走行も検討されたとのことだが、今回のデモランでは一貫してエンジン走行のみ。

 モーター音を感じることができなかったのは少し残念ではあったが、市販モデルよりもややラウドなエキゾーストノートを響かせ、シフトアップ&ダウンを繰り返しながら次々とコーナーを抜けて行くNSXにコースサイドのレースファンから大歓声が湧き上がった。

 直噴VTEC、V6ガソリンエンジンにモーター内蔵のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)を組み合わせて後輪を駆動すること、フロント左右を別々のモーターで駆動する「SPORT HYBRID SH(スーパーハンドリング)-AWD」を採用することなどが、2015年に発売される市販モデルのスペックとしてアナウンスされているが、今回のプロトタイプの詳細に関してはいっさい明かされていない。

 NSXはレース車両を想定して市販されるとはいえ、直後に鈴鹿で披露された2014年仕様のGT専用レーシングマシンとはまったくの別物だ。

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■NSXの生産工場予定地に出かけてみた(ケニー中嶋)

NSX専用工場となるPMCは選抜された約100人によってハンドメイドに近い製造が行なわれるという

 今回の初走行の舞台として世界のどこでもなくミッドオハイオが選ばれたのには大きな意味がある。

 新型NSXの開発はホンダR&Dアメリカ、生産が行なわれるPMC(パフォーマンス・マニュファクチャリング・センター)ともに北米ホンダの拠点だからだ。

 オハイオ州内3番目で現在新設中のNSX専用工場となるPMCでは既存のホンダ工場から特に優れたアソシエート(北米ホンダではすべての社員をそう呼ぶ)を約100名選抜してハンドメイドに近いNSX専用の製造ラインに採用するとのことだ。

 V6エンジンではホンダ最大の生産台数を誇る工場であるAEP(アンナ・エンジン工場)にNSX用のV6エンジンラインを新設。旧NSXと同じく「一人1台」の組立が行なわれ、DCTや日本から輸入されたモーターと組み合わされた後にPMCへ搬入されるという。

 脳裏をよぎる『オール北米ホンダで生産される新型NSXってどうなんだろう?』という疑問は現場にいた北米ホンダ関係者のコメントで払拭された。

「日本で作られた初代NSXが生まれたのはホンダが4輪を作り始めて27年目、オハイオでアコードの生産開始から30年以上経っており、ホンダイズムのなかで育ったアソシエートが作るのだから新型NSXはまったく問題ない」。なるほど合点がいった。

工場前にはここが新型NSXの故郷になる予定という看板が立てられていた

(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)

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