環境省が進めているカーボンニュートラル技術の開発・実証事業のひとつに、2022年から実施中のLNG(液化天然ガス)大型トラックの実証運行がある。今年7月から、ボルボトラックの大型LNGセミトラクタ「FHガスパワード」が実証車両に加わったのだが、これがなんと、LNGをディーゼルサイクルで燃焼できるという新技術を搭載したクルマなのである。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/UDトラックス、Volvo Trucks、フルロード編集部

連結総重量30~40トンの大型LNGセミトラクタが初登場

ボルボFHガスパワード(欧州仕様)。タイトル写真の日本仕様とは装備や細部が異なる

 LNGトラックの実証運行事業(正式名称『小規模分散型LNG充填所ネットワーク構築による大型トラック物流の低炭素化手法の実証』)は、2022年4月から北海道(苫小牧、石狩など)で進められている環境省プロジェクトで、三菱商事が事業を受託し、エア・ウォーターと共同で実施中である。

 プロジェクト自体は「小型LNG充填施設」を開発、LNG燃料供給インフラを容易に整備することで、CO2排出削減に貢献する大型LNGトラックの活用拡大を目指すもので、実証事業にはトラック物流企業12社が協力、大型LNGトラック(いすゞギガLNGV・計14台)を営業運行で使用している。また、併せてLNGに液化バイオメタンを混合した低炭素燃料の実証実験も進められている。

 今年7月11日からこの実証事業に加わったのが、2台のボルボFHガスパワードだ。従来のトラック単車に対して、こちらはセミトラクタ(2軸4×2駆動・第5輪荷重11.1トン)で、トレーラ(被牽引車)を連結・牽引して運行する。実証事業ではあるものの、大型LNGセミトラクタの公道運行も日本初とみられる。

 協力企業として参画するUDトラックス(ボルボトラックの総輸入代理店でもある)によると、実証事業では特定のトレーラだけではなく、運行業務によってさまざまな物品を載せたトレーラを牽引しているという。積荷の重量は約10~20トン、連結総重量は30~40トンで、国内で運行しているセミトレーラ連結車と条件はほとんど同じである。いまのところ、1日あたりの運行距離は100~200kmほどとのことだった。

ボルボLNG直噴ディーゼルエンジンを搭載

FHガスパワードが搭載するG13型LNG直噴ディーゼルエンジン。火種となる軽油と、本燃料のLNGの二つの燃料噴射系を備えるのが特徴。この燃料噴射技術自体はウェストポート・フュエル・システムズが開発したもので、ボルボが初めて製品化した。写真は旧バージョンのG13C(写真:フルロード編集部)

 ボルボFHガスパワードの特徴が、「LNGをディーゼルサイクル(圧縮着火)で燃焼するエンジン」を搭載していることだ。このエンジンによってFHガスパワードは、同クラスの通常型LNG車に対して、10~25%も優れた燃費性能を実現する。

 LNGは液体化しているとはいえ、あくまでも天然ガスなので、物性上はディーゼルサイクルに適さない燃料とされる。そのため大半のLNGエンジンは、ガソリン車やCNG車と同様のオットーサイクル(火花点火)を使うのが定石で、排ガス浄化もしやすい。そのかわり圧縮比を高くできないため、熱効率がディーゼルより低く、航続性能で劣ることになる。

 それに対して、ボルボFHガスパワードが搭載する「G13型エンジン」は、火種として微量の軽油をシリンダ内へ直接噴射して圧縮着火、そこへLNGを噴射してメインの燃焼を行うという、特殊な燃料噴射技術を導入した。これは、カナダのエンジニアリング企業ウェストポート・フュエル・システムズとボルボが共同開発したもので、2017年から欧州市場に投入されており、すでに6000台以上を販売している。

 実証運行車は、G13型の最新バージョンである「G13S」を搭載する。G13Sは、排気量12.8リッター・圧縮比17.0の直列6気筒エンジンで、動力性能は最高出力460PS/1404~1700rpm・最大トルク2300Nm/945~1404rpm(欧州仕様)と、ベースのディーゼルエンジン(D13K)と同等だ。NOx低減にはディーゼルと同じく尿素SCRを採用し、欧州最新の排出ガス規制・Euro-6ステップEに適合している。

代替燃料車でも軽油ディーゼルに近いクルマに

実証事業でLNGを充填中のボルボFH。マイナス162度で液化するLNGのため、燃料タンクは断熱構造になっている。日本仕様のFHガスパワードは、サイドバンパーを備えていることもわかる

 LNGは、CO2排出係数が軽油より少なく、クルマとしてのCO2排出量は、ディーゼル車比で10~20%少ないとされている。液体なので、燃料タンクが占めるスペースはディーゼル車に近くなり、CNGなど気体の天然ガス車で劣位とされる架装性や重量などの課題も、ほぼ解消される。

 ただし、LNGはマイナス162度で液化しているため、厳重に保温しなければならず、燃料タンクは断熱構造となっている。もちろん燃料配管も専用品である。それら以外は通常のトラックに近い使い勝手をもった代替燃料車となりうるのがLNG車の魅力で、それはオットーサイクルエンジンでもディーゼルサイクルエンジンでも同じだが、ディーゼルサイクル車は航続性能やドラビリ面でも、より通常のトラックに近いものとなる。しかも、LNGを使い切っても軽油だけで走行(時速20kmまで)できるのは、リスクヘッジの面からもメリットがある。

 それだけに、日本初登場のFHガスパワードの実証運行がどのように評価されるのか、非常に興味深いところだ。現時点ではギガLNGVを含めてほとんどのLNG車はオットーサイクルを採用しているが、もしかしたら「LNG筒内直噴ディーゼル」が広がる可能性もあるかもしれない。

 しかもウェストポート社では、この燃料噴射技術を、さらに水素エンジンへ応用する研究開発を進めており、今年5月にボルボ・トラックが開発を発表したFHベースの水素エンジン車でも、同社の技術を導入することになっている。環境省プロジェクトとは関係のない話ではあるが、今後の展開に注目したいところである。

 ボルボ・トラック本社の海外営業部門責任者パー・エリック・リンドストローム氏は「世界有数のLNG輸入国である日本市場において、ボルボ・トラックの代替燃料ソリューションは、よりクリーンで静かな輸送の新たな可能性を切り開くことを確信しています。新しいテクノロジーが導入される際に最も重要なのは現地の法規に適合すること。我々のインポーターであるUDトラックスは、行政と連携しながら対応を進めています。今後もカーボンニュートラルソリューションを提供する製品開発に力を注いでまいります」とコメントしている。

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