トレーラ(被けん引車)における火災事故がたびたび報じられています。エンジンがついていない被けん引車にも関わらず、なぜ走行中のトレーラが燃えてしまうのか? 主な原因とされる3つの理由を解説しましょう。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真・図/日本自動車車体工業会、国土交通省、ウクライナ国家緊急事態省

なぜ火の気がないのに燃えるのか

国交省が制作したトレーラ火災実験の動画『トレーラ火災の原因と防止について』より。3軸セミトレーラの右側最後軸輪からの炎がみえる

 トラクタ(牽引用トラック)が牽くことで初めて走ることができるトレーラには、もちろん走行用エンジンがありません。にもかかわらず火災事故が発生しているのはなぜでしょうか? 実はその火元となっているのが、トレーラの車輪まわりの部分です。

 一見すると火の気がなさそうな部分ですが、トレーラ火災の主因と考えられているのが「ブレーキの引きずり」と「ハブベアリングの破損」の二つで、どちらも車輪まわりのトラブルです。

 車輪まわりということから、「ドライバーはトレーラの走りの異常に気づかないの?」と疑問に思われる方もいるはず。実は、トレーラ連結車はそもそも重量が大きい上に、トラクタにつながれて走るトレーラの挙動は、ドライバーにはダイレクトに伝わりません。そのためトレーラの走りの異常に気づくことは、事実上困難なのです。

 ちなみに、日本よりもトレーラが普及しているドイツやオーストラリアなどでも、この二つがトレーラ火災事故の主因になっていて、日本だけで起きているトラブルではありません。それだけに発生しやすいともいえ、保守・整備の重要性がうかがえます。

「ブレーキの引きずり」とは?

国交省が制作したトレーラ火災実験の動画『トレーラ火災の原因と防止について』より。ドラムブレーキが炎に包まれている

 「ブレーキの引きずり」が起きる原因には、『ブレーキシステムに混入した水分の凍結』と『ブレーキ部品の劣化』の2つがあるのですが、先に「ブレーキの引きずり」でなぜ火災が発生するのかを解説しましょう。

 「ブレーキの引きずり」とは、トレーラの車輪にブレーキが掛かった状態のまま走行してしまうことです。それによりブレーキ部品が赤熱するほど高温となり、その熱がホイールを伝って可燃物のタイヤを着火させます。この段階になると消火もたいへんで、トレーラの荷台へと延焼し、積荷を焼いてしまうことになります。

 トレーラのブレーキシステムは、それを構成する配管や部品に異常・破損が起きた場合、非常ブレーキが自動的に掛かるように設計されています。「ブレーキの引きずり」は、システムの異常に気づかずにトレーラを走らせた際や、あるいは走行中に配管・部品が破損した際に発生してしまうトラブルなのです。

トレーラのブレーキシステム(写真:日本自動車車体工業会)

原因その1:水分凍結による「ブレーキの引きずり」

作動不良を起こしたリレー・エマージェンシー・バルブ(写真:日本自動車車体工業会・加工:フルロード)

 「ブレーキの引きずり」でも多いと考えられるのが『ブレーキシステムに混入した水分の凍結』によるものです。

 具体的には「リレー・エマージェンシー・バルブ」と呼ぶ、トレーラ側ブレーキの作動に関わる重要なバルブ装置において、内部に溜まった水分が寒冷時に凍結、作動不良を起こして、自動的に非常ブレーキが掛かるというものです。また、水分のほかに異物(ゴミなど)が溜まってしまう場合もあります。

 凍結を防ぐためのブレーキシステムの水分除去では、「圧縮エアタンクの水抜き」「エアドライヤー(除湿装置)の点検整備」「リレー・エマージェンシー・バルブの点検整備」「コントロールライン内部の水分除去」といった作業が不可欠です。もちろん異物にも注意が必要です。

 トラック車体およびトレーラメーカーの団体である日本自動車車体工業会によると、近年は冬季のトレーラ火災事故が減少しているとのこと。トレーラのユーザーや整備関係者が、リレー・エマージェンシー・バルブの凍結や異物混入に注意するようになった成果かもしれません。

リレー・エマージェンシー・バルブには水分以外にも注意すべきものがある。例えばフィルター内部にはゴミが溜まることもある(写真:日本自動車車体工業会)

原因その2:部品の劣化による「ブレーキの引きずり」

エア漏れを起こしたスプリング・ブレーキ・チャンバーの実物(写真:日本自動車車体工業会)

 「ブレーキの引きずり」は『ブレーキ部品の劣化』でも発生します。

 特に多発部位とみられるのが、ブレーキシステムを構成する「スプリング・ブレーキ・チャンバー」と呼ばれるユニットの劣化によって、チャンバー内部の圧縮エアが漏出すること。この現象が起きてもブレーキを引きずってしまうのです。

 スプリング・ブレーキ・チャンバーとは、メインブレーキおよび駐車ブレーキを直接作動させる役割をもつ、非常に重要なユニットです。

 駐車ブレーキは、走行時に解除するわけですが、スプリング・ブレーキ・チャンバーの内部では『圧縮エアの力を使って解除状態を維持』しています。ところがスプリング・ブレーキ・チャンバー内部の部品のひとつである「ダイアフラム」が劣化すると、圧縮エアが漏れでて解除が維持できなくなり、駐車ブレーキが掛かってしまうのです。

 スプリング・ブレーキ・チャンバーのダイアフラムは、2年ごとの定期交換部品です。スプリング・ブレーキ・チャンバー自体も、3年ごとの定期交換部品として指定されています。その中の細かいゴム部品やシール部品は1年ごとの交換部品となっています。

 それぞれ交換を怠った場合、また交換した部品の品質が低い場合でも、ブレーキ引きずりを起こす危険性があるといえます。交換部品選びにも注意したいものです。

 また、ブレーキ引きずりが発生しているかどうかの点検は、2人で確認作業が行なえます。1人は数回ブレーキ操作(トラクタからのブレーキペダル操作、トレーラブレーキの操作、駐車ブレーキの操作)を繰り返し、もう1人はアクスル(車軸)に装着されている「スラック・アジャスタ」が左右および前後(複数軸の場合)で同調して動いているかを確認します。

ブレーキ引きずりは、ブレーキ操作する人と、車軸についているスラック・アジャスタを確認する人の2人ひと組の作業で確認できる。スラック・アジャスタは、ブレーキ・チャンバーからブレーキユニットへ直接作動を伝えるためのレバー型部品で、ブレーキペダルを操作すると動くのが見える

原因その3:「ハブベアリングの破損」

完全に焼損したハブベアリング。焼き付きから火災事故につながった。右は正常なもの(写真:日本自動車車体工業会・加工:フルロード)

 主要なトレーラ火災のもう一つの原因が、「ハブベアリングの破損」によるものです。

 ハブベアリングとは「軸受(じくうけ)」のことで、タイヤのついたホイールを組み付ける「ハブ」に内蔵されています。ハブベアリングに組み付けられた多数の「円錐ころ」で、トレーラシャシー側に固定されたスピンドル(車軸の先端部分)を受けることにより、ホイール(+タイヤ)が滑らかに転動するしくみになっています。

 したがってハブベアリングには、トレーラの重量、転動するときの力、路面から入ってくる力などの負荷が掛かります。これが破損してしまった場合、大きな摩擦熱が発生して、ハブベアリングに塗布されたグリース(潤滑剤)を燃焼させます。その高熱が、さらにホイールからタイヤへと伝わって燃えあがるのです。

 ハブベアリングが破損する原因としては、ベアリングの潤滑と冷却の役割があるグリース(潤滑剤)の給脂不良、あるいは劣化によって、ベアリングが焼き付くためとみられています。

 その予防もまた、保守・整備をきちんと行なうことに尽きます。グリースは1年ごとの交換で、給脂作業も適切に行なうことが欠かせません。ハブベアリングの気密性を保つためのハブベアリングオイルシール、ハブキャップシールも、1年ごとの定期交換部品です。

トレーラの法定点検・分解整備記録簿。エンジンのないクルマでも、これだけ点検・整備を必要とする箇所があるのだ

原因そのほか:駐車ブレーキの解除忘れや解除不良

トレーラの定期交換部品(写真:日本自動車車体工業会)

 トレーラが火災事故を起こす主な原因を紹介しましたが、これらのほかにも、『トレーラ駐車ブレーキの解除を忘れてブレーキ引きずり』『圧縮エア圧の不足による駐車ブレーキの解除不良でブレーキ引きずり』などもあるようです。こちらは運転する際の手順・作業をきちんと踏まえることで防止できるでしょう。

 国土交通省では、公式ウェブサイト内・国交省政策チャンネルあるいはyoutubeで「トレーラ火災の原因と防止について」という、実車トレーラを用いたブレーキ引きずり実験動画を公開しています。これはとても参考になると思います。

 また、日本自動車車体工業会の公式ウェブサイトでは、「安全への取組み」内の「安全に関するニュース」に、「トレーラサービスニュース」という項目があります。ここから、トレーラに使われている部品のメンテナンスに関する資料を、無料でダウンロードすることができます。

 トレーラユーザー、トラクタドライバーの皆さん、どうぞご安全に!

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。