クルマと道路は切っても切り離せないもの。交通ジャーナリストの清水草一が、毎回、道路についてわかりやすく解説する当コーナー。今回は、ついに撤去されてしまった「あの信号」に想いを馳せる!
文/清水草一、写真/フォッケウルフ、資料/首都高速
■首都高の伝説のひとつが消滅
首都高・箱崎ジャンクションの下層にある箱崎ロータリーは、”複雑怪奇な首都高”を象徴するラビリンスだ。
そこは文字通りロータリーなので、何度でも周回が可能。首都高本線3方向すべてと接続しているだけでなく、4つの出口と2つの入口があり、中心部には空港リムジンバス発着所である東京シティエアターミナルがある。
そして高速道路上としては珍しい信号機も4基存在した(くわしくは2023年の記事『出入口が6つあって信号機や謎駐車場まで! 迷宮と化した首都高箱崎ロータリー9つの謎とは?』参照)。
ところが、2024年12月9日、その信号機が撤去された。箱崎ロータリー伝説のひとつが終焉を迎えたのだ。
箱崎ロータリーの信号機は、1980年に9号深川線が箱崎JCTに接続した際、交通の錯綜を避けるために設置された。それから44年。首都高ネットワークの進化によってロータリー内の交通量が減少したため、信号機が撤去されることになったのだ。
■年月とともに交通量は減少
かつて箱崎ジャンクションは、首都高の渋滞のヘソだった。首都高の渋滞のかなりの部分が箱崎を先頭に発生してしており、少しでもそれを避けようと、6号向島上下線をバイパスすべくロータリーを突っ切るクルマも一定数存在した。
しかし、C2(中央環状線)の全線開通などもあり、近年、箱崎ジャンクションを先頭にした渋滞はかなり減少。ロータリーの交通量も減り、浜町入口からの合流部にある”あの信号”で並んでいるのはせいぜい数台、という状況が多くなっていた。6号深川線上りの合流部にある信号機のほうは、赤点滅および黄点滅で運用され、通常の信号としての役目はほぼ終えていた。
しかしそれでも首都高マニアとしては、撤去しろとは言えなかった。なぜならそれは、謎のラビリンス・箱崎ロータリーを象徴する物件のひとつだったからだ。
首都高には、かつて江戸橋ジャンクションにも信号機が存在した。そちらは本線上の信号機だったので、首都高初心者を本気で驚かせることができたが、1991年、改良工事の完成にともなって撤去された。
箱崎ロータリーの信号機は、江戸橋ジャンクションのそれと比べるとはるかに重要度が低く、存在すらあまり知られていなかったが、逆に「首都高の秘密の信号機」という希少性があったのである。
■信号が撤去されてどうなったか?
ただ現実には、かなり以前から無用の長物。今回の信号機撤去に伴って、現場はロータリーが1車線に絞られ、浜町入口からの合流部は、信号ではなく一時停止に改められたことで、クルマの流れは非常にスムーズになった。信号待ちがないぶん、以前よりはるかにスイスイと進行できる。
箱崎ロータリーはロータリーだが、信号待ちがあった時は、あえてグルグル周回するドライバーは見かけなかった。しかし現在は、首都高を知り尽くしたマニアなら、「気分転換に何周かしてみよう」という気になるかもしれない。
実は、箱崎ロータリーの信号機には、隠れた効能があった。それは、ロータリー内で迷ってパニックになりかけた際、気持ちを落ち着かせ、案内標識をじっくり見直す時間を与えてくれることだった。
箱崎ロータリー内では、高い確率でナビゲーションが効かない。ナビは自車がいま箱崎ジャンクションの上層にいるのか下層にいるのか最下層(一般道等)にいるのかが判断できないからだ。自分の目で案内標識を確認し、向かうべき分岐点を判断する必要がある。そんな時、1分近い信号待ちはありがたい存在だった。
しかし今はもう、あの信号機はない。
もしもロータリー内で迷ったら、脇にある箱崎PAに一旦クルマを停めることをおすすめする。首都高初心者には、それがPAであることすら気付きにくい、地味で小さいPAだが、PAはPA。1分と言わず、何分でも止めることができる。
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