横浜市交通局では、「\いいじゃん‼交通局/まだまだ採用!横浜市交通局の人財確保大作戦!」として、バス乗務員(大型二種免許所持者)を募集している。これに合わせて『人財確保大作戦 第3弾』を発表。過去最大級の大幅なベースアップを全職種で実施するほか、若年層への支援強化を進める。詳細を検討してみよう。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■職員の待遇改善に向けた取組

賃金の新旧比較

 同局の取り組みとして最初に挙げられているのは賃金等の待遇面だ。現場で働く職員を対象に平均7.72%となる大幅なベースアップを行い、初任給を月額21,000円以上引き上げた。従来、公営のバス運転士は人不足は考えられなかった。理由は就職すると公務員になり、月収や年収ベースの所得はもちろんのこと、退職後の安定性も民間よりも抜群に良い印象があるからだ。よって運転士を充足するのにさほど苦労せず、どの公営バスも概ね強気の採用を行っていた。

観光客にも多く利用される横浜市営バス

 ところが、バス運転士のイメージ全体の低下により、公営の方が若干有利だという現実はあれども、全体として運転士不足が顕著になってきた。公営でも運転士不足により路線の統廃合が行われ、減便するほどの状況に陥っているのは周知の事実だ。

 よって大都市の公営バスと言えども黙った応募を待つわけにはいかなくなってきている。同局においても、大型二種免許の持たない、いわゆる【養成コース】の養成期間中の基本給すらも、12.6%の大幅なベースアップを実施した。

 なお、養成コースの職員は会計年度任用職員として入局後、研修を受けながら大型二種免許を取得(費用は同局が助成)し、その後に運転実技試験を経て正規職員になる流れだ。

■若年層の応募者への支援強化

港町にマッチした路面電車風デザインのバスも導入された

 バス乗務員【養成コース】については、大型二種免許の資格要件を緩和する「受験資格特例教習」が制度としてスタートしている。これを修了している者を対象に、正規職員採用後に受講費用を助成する。受験資格特例教習を修了した場合、免許取得に係る資格条件について従来の21歳以上運転経歴3年以上が、19歳以上運転経歴1年以上に緩和される。

 この制度を利用すると18歳で普通免許を取得し、19歳で特例講習を受講して大型二種免許を取得すれば、最短で19歳の運転士が誕生する。若い人が長くバス運転士を務めてもらおうとした場合、この制度は事業者としては積極的に利用したいところだろう。

■交通局職員による採用PR実施

職員のサービス意識向上にも役に立つ

 同局では令和6年度より「いいじゃん!!交通局」をコンセプトに採用活動を実施している。今回は市営地下鉄の各駅など、交通局の各現場で働く職員が「いいじゃん!!交通局」のバッジを着用することで、市営交通で働く魅力を広く周知していく。

 直近では東京都交通局でも同様のPR活動を行っているが、公営交通の魅力や利便性を積極的にアピールすることは、住民にとって、あるいは当該地域を訪れる旅行者にとっても悪いことはない。職員にも一体感やサービス意識が向上するメリットがある。

■「人財確保大作戦 第1弾・第2弾」の取組内容一覧

観光路線バス「あかいくつ」

 まとめると、給与の大幅ベースアップは、プラス6.65%の大幅ベースアップを実施。バス整備員の手当増額として、初任給調整手当を5,000円に増額、住居手当を年間60万円に増額。ウェルカムバック制度の導入として、交通局を中途退職した方に個別相談や採用選考を実施。

 採用選考の改善として、公務員型の一般教養試験、作文試験を廃止し、民間と同様に適性検査(SPI)を導入。住居手当の増額として、年間60万円(50,000円/月)の住居手当を採用から5年間支給。

 バス乗務員の年齢要件緩和は、令和6年度からバス乗務員は60歳以下、養成コースは50歳以下に年齢要件の引き下げ。バス乗務員【女性枠】の新設し、大型二種免許を所持している女性を対象に1次選考を免除し、受験者全員が面接に進める採用選考を新設。アドトレインの運行は、「いいじゃん!交通局」をコンセプトに市営地下鉄1編成の車内広告をジャックし交通局の魅力などをPRする。

■まずは色々やってみることは重要

クルーズ船入港時の波動輸送

 同局のこれらの施策は、まだまだな点や批判を招きそうなものがあるのも事実だ。あくまでも要項を見ただけのとらえ方の問題だということをお断りしておくが、例えば住宅手当が5年間しか支給されないように感じるのは不安要素ではないだろうか。

 横浜市周辺ですでに居住している方はともかく、これから就職して住もうという方には横浜の家賃は高額に見えるだろう。5年間はいいが、その後はどうするのかという不安は付きまとう。

 女性枠については表立って文句を言う人は少ないだろうが、女性運転士の数は増えている現状で、女性だけを優遇とみなされる可能性もある。男女平等が広くうたわれる昨今の社会情勢で、女性差別はダメだけど優遇なら見逃されると感じる声はある。

ポンチョも活躍中!

 女性が働きやすい職場をつくることが大切だが、入り口の段階で差別することがまかり通っていることに対する批判は声なき声として少なからず出てくるだろう。ただし女性運転士は一般的に利用者の評判が良いのが事実なのは付記しておく。

 しかし、そうした問題や不安点は応募者にとって重要なのであり、利用者には関係がない。要は応募時に聞けば済むだけの話なのだ。それで解決できればいい条件だろうし、解消されなければ問題点として残ることになる。それでも切羽詰まる運転士不足問題を解決しようと色々な施策を打ち出せるのは、公営企業としては勇気が必要で実施してみて次年度にフィードバックすることが大切だろう。

 これで運転士が増えれば他局でも成功事例として採用が増え、遅れて民間の事業者も右へならえが進むことになろう。

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