コップに注がれる牛乳

 高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に感染した牛の乳にウイルスが含まれ、その乳をマウスの口に垂らすと感染することを確認したと、東京大新世代感染症センターの河岡義裕機構長らの研究チームが発表した。乳を熱処理すると、感染能力のあるウイルスは3万分の1に減ったという。

 H5N1ウイルスは、2020年以降、世界的に流行し、ヒトを含むさまざまな哺乳類への感染が報告されている。特に米国では、今年3月以降、乳牛への感染が急拡大し、牛乳を介したヒトなどへの感染拡大が懸念されている。

 ヒトへの感染例は、20年以降だけで中国や米国などの28人が世界保健機関(WHO)に報告されており、致死率は50%程度。日本では、野生のキツネへの感染が23年に確認されて以降、感染事例はない。

熱処理で3万分の1に

 研究チームは、H5N1ウイルスに感染した牛から採取した乳に対し、63度で30分間、もしくは72度で15秒間の熱処理をした。すると、いずれの条件でも、感染能力のあるウイルスは3万分の1に減った。

 一方、熱処理をせずに4度で冷蔵保管すると、感染力のあるウイルスが数週間も残存したという。

 熱処理をしていない牛乳をマウスの口に垂らすと、翌日には発症し、感染4日目には呼吸器や脳、乳腺、心臓などでウイルスが増殖していたという。

 河岡さんは「感染牛の乳に多くのウイルスが含まれることは、公衆衛生上の大きな問題だ。非加熱のものを口にすれば、ヒトでも感染する恐れはある」と指摘する。

 その上で、今後H5N1ウイルスがヒト間でも感染を起こして流行する可能性について「1997年に香港で見つかって以降、ヒトの間での流行はなかった。ところが、今年に入って牛の間で流行しており、ウイルスの性状(特性)が変わってきている可能性がある。注視していく必要がある」と話した。

 成果は米医学誌ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMc2405495)に掲載された。【渡辺諒】

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