刑務所を出所しても家や仕事が見つからず、2人に1人が再び罪を犯している。この負の循環に陥る人を救うため、「元ヤクザ」の女性がNPO法人を岐阜に立ち上げて、自身の過去を元に支援を続けている。
■2人に1人は「再犯者」 “負の連鎖”断ち切るために必要なこと
岐阜県に住む山本さん(仮名・50代)は、覚醒剤取締法違反の罪でこれまで4回、刑務所での生活を送った。
山本さん:
組事務所で逮捕されました。37歳の時に覚せい剤取締法違反で1回目の刑務所に行きました。2回目が42歳。次が45歳。最後は48歳。
2023年8月に仮釈放されたが、今も抱える覚醒剤の依存症以外にも、出所するたびに苦しんだことがある。
山本さん:
全部ですね。住むところがない、仕事がない。お金がない。やっぱり悪いことにそめてましたね。1、2、3回目とも。
出所しても生きていくための環境が整わず、結局、犯罪に手を染めることを選び「再犯」を繰り返した。刑務所を出た人が、また刑務所に舞い戻る。この“再犯”が今、課題になっている。
法務省が毎年公開している「犯罪白書」によると、2002年には刑法犯で検挙された人が35万人いたのに対し、20年後の2022年には17万人と半分以下になっていて、検挙される犯罪自体は減っている。
しかし、2人に1人は過去にも検挙されたことがある“再犯者”だ。山本さんのように、生活がままならず犯罪を繰り返す「負の循環」に陥る人がいるのも現状だ。
山本さんの場合は、仮釈放の際に身元引受人となった実の娘の支えもあり、何とか生活できている。
山本さんの娘:
これが最後のチャンスで、本当に次はないけども、世の中の接し方がいけなかった、こちら側の。しっかりと更生させて、真っ当な人生を歩んでほしいということがあって、今回、身元引受人を受けた。
山本さん:
今回4回目の時は僕は恵まれていまして、娘たちに身元引受人になってもらって、恵まれている方ですよ。今度は裏切りませんので。娘たちを。
もう「5回目」は絶対にない。支えてくれる人の存在が、山本さんにそう誓わせています。
■「元ヤクザ」の過去を持つ女性 過ちの代償を知ってから“支える側”へ
NPO法人「五仁會(ごじんかい)」岐阜支局長の西村まこさん(57)は、社会復帰した出所者の生活を支援をしている。
主に西村さんが、出所した人からの相談を受け、NPOのメンバーが管理しているビルの部屋をあてがったり、メンバーの1人が束ねる解体工の仕事を紹介する。「住むところ」「働くところ」といった、出所者が困ることが多い「生きていくための環境づくり」を手助けしている。
西村さん自身にも、消せない過去はある。女性で初めて、国から暴力団員と認定された「元ヤクザ」だ。腕にびっしり彫られた「和彫り」が、その過去を物語っている。
西村まこさん:
盃を貰ったのは二十歳ですね。10代終わりころくらいに、「女でもいいんでヤクザやらないか」と2回声をかけられたんですよ。(当時女性は珍しかった?)いたとは思うんですけど、盃もらったりとか、そういう人は聞いたことないです。
西村さんは、暴力団に入って22歳の時、傷害事件を起こして1年の有罪判決を受けた。執行猶予はついたものの、そのさなかに覚醒剤所持で逮捕され、2年半を刑務所で過ごした。
30歳の頃に暴力団を抜け、結婚と出産を経験した。“人並みに生きる”ことを決め、介護や医療事務などの資格も取得し働こうとしたが、すぐに「過ち」の代償を痛感したという。
西村まこさん:
医療事務は通ってとったんですけど、結局制服じゃないですか。面接に行くと、まず最初に健康診断があるんですよ。その時に「すみません、入れ墨入っています」っていうと、断られるんですよね。真面目に一生懸命やれば、入れ墨があっても認めてもらって、正社員にしてもらえると思ったんですけど、結局その前に見つかっちゃって、クビですね。
■感謝の言葉「ありがとう」が更生の励みになる
西村さんは、元暴力団員で前科持ちだということで、社会には容易に受け入れられないことを身をもって知った。それからは、刑務所からの出所者や暴力団を抜けた人に、自身の過去を重ね、手を差し伸べている。
ある日、西村さんらが支援する人たちが20人ほど集まり、名鉄岐阜駅周辺や柳ケ瀬商店街で約2時間、ゴミ拾いをした。覚醒剤で4度の刑務所生活を経験した山本さんも、西村さんのNPOに解体工の仕事を紹介してもらったといい、ゴミ拾いにも初めて参加した。
山本さん:
(西村さんは)気持ちを分かってくれます。大変さもわかってくれるし。頼りやすいですね。
西村さんはNPOの活動について、「昔は“ワル”だった人が、今は真面目に活動している」という、ありきたりなアピールが目的ではない、と話す。
西村まこさん:
刑務所から出てきた人間が集まって、また悪いことをするとか思われがちですけど、全然中身は違いますので。生活環境を整えてやめさせて、“居場所づくり”のためにやっている。過去にあんだけのことをしといて言うのはなんですけど、今が一番充実している。だから、このまま続けていきたいです。
自身も保護司として活動し、再犯に詳しい朝日大学の大野正博(おおの・まさひろ 54)教授は、西村さんの活動の意義を評価している。
朝日大学 大野正博教授:
自身が活躍できる機会がないと、なかなか自信がないという方が多いので、少しの失敗が“やはり自分はダメなんだ”と思って、また犯罪に走らせてしまう。「ありがとう」とか、地域から感謝の言葉を述べられるというのは更生の励みになるのではないか。犯罪を犯した・犯さないではなく、誰もが住みやすい社会にしていく。それができれば、再犯をせずに生活ができると言う状況になっていくのではないか。
2024年5月3日放送
(東海テレビ)
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