鎌倉時代の歌人、藤原定家(1162~1241年)による古今和歌集の注釈書「顕注密勘(けんちゅうみっかん)」の自筆原本が見つかり、冷泉家時雨亭文庫(京都市上京区)が18日発表した。和歌研究で極めて重要と位置付けられる顕注密勘は多数の転写本が存在。一部は重要文化財に指定されているが、原本の発見は初めて。今後の修理によって、転写本では分からなかった定家本人の書き込みや推敲(すいこう)にたどりつける可能性が浮上し、専門家は「国宝級の発見」と評価した。
定家に関わる顕注密勘は上中下の計3冊あり、自筆はこのうちの中冊と下冊。大きさはいずれも縦18センチ、横16・5センチだった。平安時代末期の学僧・顕昭(けんしょう)の注釈を引用し、その後、定家が同意や反論、家に伝わる説などを書き足したとされる。書き足りない場合は、上に紙を継ぎ足すなどした。下冊の最後に「承久三(1221)年三月廿八日 八座沈老」の署名と花押があり、鎌倉時代前期の定家自筆と判断した。
冷泉家では明治時代まで歴代当主が一生に一度、和歌の奥義を師匠から弟子へ伝える「古今伝授」に関する冊子などが入った箱を開け、秘伝を授かる伝統があった。約130年間にわたり開けられておらず、今回調査を進める中で、この箱の中から顕注密勘が見つかった。古今伝授関係の60冊の冊子や古文書、手紙58点も発見された。
顕注密勘は虫食いなどによる傷みが激しく、修理する必要があるという。冷泉家時雨亭文庫は修理後の公開などを検討している。
同文庫の調査員を務める京都産業大の小林一彦教授(中世和歌文学)は「非常に大きな発見。転写本の相違についても原本が出てきたことで解決される」と述べた。
東京大の久保田淳名誉教授(和歌文学)は「古典文学の世界で著者による原本は絶対的で、研究者にとっては国宝級の発見。古今和歌集の研究がさらに精密になることは確かだろう」と述べ、今後の進展に期待を寄せた。(田中幸美)
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