コーヒーを飲むことは、2型糖尿病、認知症などの神経疾患、死亡のリスクの低下との関連が見つかっている。しかし、カフェインを取り除いたデカフェコーヒーでも同じ効果が期待できるのだろうか。(PHOTOGRAPH BY SAM ABELL, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

コーヒーは世界で最もポピュラーな飲みもののひとつだが、健康への懸念からカフェインを取り除いた「デカフェ(カフェインレス)コーヒー」を選ぶ人も増えている。全米コーヒー協会(NCA)の調査によると、米国では成人の約1割にあたる2600万人が定期的にデカフェを飲んでいるという。その理由は、血圧が気になる、遅い時間のカフェイン摂取を減らしたい、睡眠が妨げられるのを避けたい、カフェインに過敏な体質などさまざまだ。

選ぶ理由が何であれ、「デカフェの人気はますます高まっています」と、オーストラリア、クイーンズランド大学の教授で地域保健・福祉を教えるローレン・ボール氏は言う。

しかし、通常のコーヒーには、2型糖尿病や認知症などの神経疾患の発症リスク、死亡リスクなどの低下といった健康上の利点があることがわかっている。また、コーヒー豆からカフェインを取り除く際に、塩化メチレン(ジクロロメタン)という有機溶剤を用いたデカフェに対しては、健康上の懸念が高まりつつある(編注:日本では有機溶剤抽出法によるデカフェコーヒーは輸入が禁止されている)。

デカフェコーヒーにはどのような健康上の利点があるのだろうか。また、そうした健康効果には、通常のカフェイン入りコーヒーと比べるとどのような違いがあるのだろうか。

デカフェと通常のコーヒーの違い

うれしいことに、コーヒーの健康上の利点の多くは、デカフェコーヒーにも同じように備わっていると、米ベイラー医科大学の家庭・地域医学助教授で登録栄養士のルイス・ラストベルド氏は言う。氏によると、コーヒーには数々の有益な物質が含まれており、その多くはカフェインを取り除いたあとも残されている。

その理由は、コーヒー豆に含まれる抗酸化物質の量の多さにあると考えられている。カフェインを除去しても、抗酸化物質の多くは残る。

「カフェインを除去する方法はさまざまですが、コーヒー豆そのものに含まれる化学物質全体を見ると、ある程度の体にいい効果は依然として保たれていると思われます」と、米テキサス大学医療科学センター公衆衛生大学院の登録栄養士ドロレス・ウッド氏は言う。

カフェインの除去方法によっては、通常のコーヒーよりも抗酸化物質の量が減ることはあるものの、デカフェにも抗酸化作用が期待できるという研究もある。

これはつまり、デカフェを飲む人にも大きなメリットがあることを意味する。2014年に医学誌「Diabetes Care」に発表された、28件の研究を分析したレビュー論文 によれば、デカフェを飲む人と通常のコーヒーを飲む人は、どちらも2型糖尿病を発症するリスクが低下していた。1日に飲んだコーヒーの杯数が多い人ほど、その発症リスクは低くなっていた。

カフェインの長所と短所

一方で、デカフェと通常のコーヒーの効果には多少の違いもある。ただし、研究によって見つかった効果の差が、デカフェに含まれるカフェインが少ないからなのか、カフェインを除去する過程でコーヒーに生じた変化によるものなのか、それともデカフェを飲む人が少ないせいなのかを見分けることは困難だ。

2022年に医学誌「European Journal of Preventive Cardiology」に掲載された研究では、参加者44万9563人の健康状態を12年半にわたって追跡し、コーヒーを飲む人と飲まない人の心血管疾患の発生率を調べている。その結果、デカフェでも通常のコーヒーでも、コーヒーを飲む人は飲まない人に比べて心血管疾患および死亡のリスクが小さかった。

研究者が発見した一つの大きな違いは、デカフェコーヒーは不整脈の減少とは関連がなかったことだ。これは、カフェインには「アデノシン受容体」をブロックして心臓のリズムを安定させる効果があるからかもしれないと、論文の責任著者であるオーストラリア、アルフレッド病院ベーカー心臓・糖尿病研究所の心臓専門医ピーター・キスラー氏は言う。

こうした研究結果を受けて、米国心臓協会と米国心臓病学会は2022年、通常の量のカフェインと心房細動(不整脈の一つ)のリスクには関連が見られないとし、心房細動の患者にカフェインの摂取を控えさせる指導は有益ではないとの勧告を出している。

カフェインはまた、片頭痛の軽減にも役立つ。2019年に医学誌「The American Journal of Medicine」に発表された研究によると、反復性の片頭痛が起こる人は、カフェインの摂取によってその頻度が減るという。また、カフェインが片頭痛治療薬の効果を補強することも、研究によって示唆されている。一方で、人によってはカフェインで頭痛が引き起こされたり、悪化したりする場合もある。

とはいえ、カフェインをただ多く取ればいいというわけではないと、オーストリア、ウィーン大学の栄養学研究者イナ・ベルクハイム氏は言う。「コーヒーの効能の理由がカフェインだけにあるのだとすれば、(カフェイン入りの)ソフトドリンクからも同じような効果が得られるはずです」

現在、米食品医薬品局(FDA)はカフェインの摂取量を1日400ミリグラム以下にするよう推奨している。200ミリリットルのコーヒー(抽出液)に含まれるカフェインは約120ミリグラムだ。カフェインの影響は人によって異なり、中には非常に敏感な人もいる。

カフェインを取りすぎると、短期的にはイライラや睡眠障害、胃腸の不快感、頭痛、心拍数の増加などを引き起こすことがある。また長期的には、摂取をやめようとした場合に、頭痛などの離脱症状(禁断症状)が現れる可能性がある。

コーヒーにまつわる習慣も重要

コーヒーの健康効果がこれほど長い間議論されてきた理由のひとつは、コーヒーの摂取はほかの習慣と密接に関係していることが多く、真の原因と結果を見分けるのが非常に難しい場合があるためだ。「このテーマに関する完璧な研究は存在しません」と、ベルクハイム氏は言う。

研究者らはこれまで、大勢の人々のコーヒーを飲む習慣と健康への影響を追跡して因果関係を解明しようと努めてきたが、こうした手法の場合、相関はあっても因果関係はない要因が混ざってしまうリスクが生じる。

たとえば、20万人以上の医療従事者のコーヒー消費習慣を追跡した大規模な研究からは、コーヒーの摂取が喫煙率の高さと関連しており、彼らが直面する肺がんなどの健康リスクは、コーヒーよりもむしろ喫煙に起因していることがわかった。非喫煙者に限定して分析すると、コーヒーを飲む量が多いほど死亡リスクは小さかった。

同じことは、砂糖を大量に入れるなど、コーヒーの飲み方についても言える。別の研究からは、定期的に飲むコーヒーの量が多いほど、長期的な体重増加が抑えられるという関連が見られたが、これはコーヒーに砂糖を入れず、クリームのみ入れるかブラックで飲む場合に限られていた。この結果は通常のコーヒーを飲む人にも、デカフェを飲む人にも当てはまる。

「デカフェであれ通常のコーヒーであれ、甘みを加えないコーヒーを飲むことが重要だと言えます」と、ボール氏は言う。

文=Rachel Fairbank/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年6月12日公開)

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