自分が介護されるときに備えて、下半身の脱毛をしておく「介護脱毛」への関心が高まっています。希望する人が増えている背景や脱毛のメリットのほか、介護施設で働く人の意見を聞きました。

■女性8割 男性6割が希望する「介護脱毛」

「介護脱毛」は下半身のデリケートゾーンの脱毛を、排せつの世話やおむつの交換など、将来介護されるときに気になるという理由でするものです。

名古屋の街で「介護脱毛」は「あり」か「なし」か聞いてみました。

Q「介護脱毛」を知っていますか
60代女性A:
はい。

60代女性B:
はい。

Q介護脱毛は「あり」ですか?

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60代女性A:
あり、あり。自分がわからなくなった時に施設に入ったり、お世話になった時にいい状態で入っておきたいじゃないですか。

60代女性B:
ちょっと、えー。

60代女性A:
一緒にやろう~。

60代女性B:
費用面もそうだしちょっと怖いとか恥ずかしいとかもあるし。

40代女性:
私もやっていて、ストレスがないというか清潔に保てるというのもあります。

60代男性:
介護脱毛?なにそれ。

一緒にいた70代男性:
知りません。

大手脱毛クリニック「メンズリゼ」が40代~50代の男女1140人を対象にした調査では、女性の約8割、男性でも約6割が「介護脱毛」を“やりたい”と回答しています。

■クリニックで聞いた実際の脱毛はどうやってやるのか

ただ、どんなものなのかわからないという声も多く、名古屋市名東区のクリニック「桜の咲クリニック」で聞きました。

「桜の咲クリニック」の岡庭紀子院長:
1番はやっぱり尿路感染症をだいぶ防げる。寝たきりで訴えができない場合はかゆみ、痛み、ムレ、そういったことが訴えられないので。

岡庭院長は、介護脱毛には排せつ物を拭き取りやすくなり、炎症や感染症を防ぎやすくなるほか、においやムレが軽減されるなどのメリットがあると説明します。

どうやって脱毛するのか、施術に使う機械を見せてもらいました。

このクリニックでは脱毛機のレーザーを照射することで、毛のメラニン色素に反応し熱を発生させて毛根を破壊します。

ここで使われている機械では、1回あたりのVIOの施術は15分程度で終わるといい、個人差はありますが5回ほどの施術が必要だということです。

「桜の咲クリニック」の岡庭紀子院長:
ゴムではじいたような感じの痛みを感じるかなというところですね。

■50代女性のきっかけは「介護する人に『申し訳ない気持ち』」

将来、介護される日を意識し始める40代や50代の女性を中心に「介護脱毛」を受ける人は増えているといいます。50代の亀井さんもその1人で、2023年の春から脱毛を始めました。

亀井美紀さん(50代):
ただ恥ずかしいなという思いもあったりとかしてなかなかできなかったんですけども、そんな時に「介護脱毛」という言葉を知って、将来役に立つのであれば始めてみようかなと。

介護されるのは申し訳ないという意識があると話します。

亀井美紀さん(50代):
やっぱり家族でもそうだと思うんですけど、申し訳ないなという気持ちがあるんですね。だとすると少しでもその人たちが介護しやすいようにというのは、ちょっと気にかけています。

また、岡庭院長は美容クリニックの競争の激化も「介護脱毛」ブームにつながっていると打ち明けます。

「桜の咲クリニック」の岡庭紀子院長:
介護の認識も強まっていると思いますけど、でもやっぱり値段が安くなったということが1番じゃないですかね。大手さんが値段を安くしちゃっているから。

ここ数年、手足や脇などの脱毛が若い世代を中心に一般的になり、脱毛クリニックの数が急速に増加しています。

10年ほど前には40~50万円かかるのが当たり前だった脱毛を、10万円以内でできると謳うところも増えました。

競争が激化するなか、新たな市場として中高年世代に「介護脱毛」をアピールするクリニックも増えているようです。

■体毛はなくても問題ないのか

しかし自然の毛をなくすことを躊躇する声も聞こえました。

50代男性:
別になしで(脱毛しないで)いいんじゃないかなと思う。

60代女性:
自然のままの方がいいのかなって、人間はね。

生まれ持った毛をなくして問題はないのか、サルの研究をする愛知県犬山市の日本モンキーセンターで聞きました。

それぞれのサルの毛には生きるうえでの役割があるようで、サルたちに比べ、ヒトは進化の過程で体毛が極端に薄くなりましたが、霊長類の進化を研究する高野智さんは、その中でも残る一部の毛には重要な役割があると話します。

日本モンキーセンターの高野智さん:
陰毛や脇毛に絡んだアポクリン腺の分泌物から作られる体臭というのが、人によって感じ方がだいぶ違って、いい匂いに感じる人とは遺伝的に相性がいいんじゃないかというような研究もあるんですね。

脇や陰部の毛でキープされるにおいが、繁殖相手を選ぶ基準の1つになっている可能性があるといいますが、では、介護を受ける世代にとってはパートナー選びはあまり関係ないということでしょうか。

日本モンキーセンターの高野智さん:
(繁殖が)終わって脱毛する分には別に歳を取ってもがつがつしている人はいるかもしれないですけどにおいの重要性は薄れていくかもしれないですよね。

■中高年にも今後は脱毛広がるか コロナ禍きっかけで始めた大学教授の予想

慶応義塾大経済学部の坂井豊貴(とよたか)教授(48)は、オークションなど市場のルールの研究が専門ですが、手足や顔に加え、デリケートゾーンもツルツルという「脱毛マニア」です。

慶応義塾大学経済学部の坂井豊隆教授:
なぜ脱毛をするかではなく、なぜしないか。どうして自分は他の毛を残しているんだろうと発想が変わったんです。

コロナ禍でオンライン会議が増えて、自分の顔を見る機会が増え、ひげ脱毛したのをきっかけに脱毛にはまったといいます。

慶応義塾大学経済学部の坂井豊隆教授:
男が脱毛なんて、みたいな暗黙な社会規範がだんだん薄くなってきた。やっぱり僕は自己満足が大事だと思っていて、潜在的にやりたい人はいっぱいいると思うんですよ。若い人を見て、年齢層上の人もやってみたいと思うようになるんじゃないかと思うんです。美容も介護も両方ですよね。

脱毛は「自己満足」とツルツルの笑顔で言い切る坂井教授は、社会のイメージが変わることで、今後、中高年の間でも脱毛がますます広がると予想しています。

■プロらしい意見も…実際に介護の現場で働く人の考えは

そして、肝心の介護されるときの違いはどうなのか。名古屋市内の介護施設で、介護福祉士と介護士に聞きました。

介護福祉士の男性:
(介護を)やる側としては(毛が)ない方がスムーズにいくのかなというのは、とても思います。本当に排泄物がアンダーヘアに絡まってしまうことはよく見られる。きれいにするにも時間がかかったりしますし。

排泄物のふき取りには、やはり毛がないほうがいいという感想でした。しかし、毛があってもなくても大丈夫というプロらしい意見もありました。

介護士の女性:
職員たち(介護を)やる人たちが綺麗に保つように心がけているので、そこまで別にいいのかなと思いますけど。

介護福祉士の男性:
介護者よりきっと本人の方にメリットがあると思っていまして。利用者側の人は皮膚トラブルとかの問題もあるので。本人の不快な気持ちもあると思いますし。介護というワードが広まるきっかけになっているのであれば、いい方向で考えてくれている方が、働いている側としては嬉しいかもしれないですね。

介護脱毛は「あり」か「なし」か。介護士さんの意見は“自分のため”の選択で良いということのようでした。

2024年6月5日放送

(東海テレビ)

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