『奄美でハブを40年研究してきました。』服部正策著(新潮社・1760円) 「ハブ」と聞くと、グロテスクな模様が体に入った、怖い毒蛇というイメージが浮かぶ。体長は大きいもので2・4メートルを超え、注射針のような牙を持つ。嚙(か)まれたらただでは済まないどころか、直近では平成26年に男性が死亡する事故さえ起きた。現在は、抗毒素によって命は助かるようになったが、治療の時間が遅れると毒が体内に回り、半年間まともに歩けないほどの影響を及ぼすという。

令和3年にユネスコ世界自然遺産に登録された鹿児島県・奄美大島には、ハブが推定10万匹も生息しているというから驚きだ。島にある東京大学の研究施設に通い、そんな危険な生き物に何千匹と向き合い、一度も嚙まれずに40年も研究を続けた学者がいるというからさらに度肝を抜かれた。本書は、その成果をユーモラスに解説した「ハブ徹底攻略マニュアル」である。

道を歩いているとき、ハブに遭遇したらどういう行動を取るべきか。ハブに嚙まれたらどう対処すべきか。どんな人が嚙まれやすいか。ハブのおいしい調理方法は何か。そうした疑問に著者は実体験を交えて答えていく。

中でも著者の研究の中心は、ハブの効率的な捕獲だ。島の住民にも協力してもらい、さまざまな実験を重ね、試行錯誤を繰り返した。それはまさしく人間VSハブの「仁義なき二十年戦争」だった。その結果、たどり着いた結論のあっけなさには、思わず笑ってしまった。島ではハブ取り名人も活躍中で、近年は若い女子までが〝参戦〟しているという。

奄美大島は自然豊かで、人気のクロウサギをはじめとする希少な動植物の宝庫だ。少し歩けば透明度の高い海が広がり、年中暖かいため、Tシャツに短パンで過ごせる。黒糖を使った焼酎作りも盛んで、酒好きにはたまらない「楽園」だろう。そんな奄美の魅力が詰まった本書はガイドブックとしても一級品だが、現代社会において、人間が自然に親しむ意義や大切さをも気づかせてくれるのである。

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