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<SNSを目的とした食事が子供に及ぼす影響について。飲食店での迷惑行為との関係も>
食べ渋り、食べるスピード、偏食、好き嫌い、こだわり、栄養の偏り...。子どもの食体験は、彼らが抱える課題や生きにくさや学校でのトラブルとも密接に関連している。
大人はどのように子どもの食事における課題に向き合うことができるのか。『児童精神科医が教える こころが育つ! 子どもの食事』(CCCメディアハウス)の第1章「『普通に食べる』が難しい子どもの存在」より一部抜粋する。
◇ ◇ ◇飲食店テロに見る子どもの食体験とSNSの影響
最近では、某回転寿司チェーン店で、醤油さしを舐めたり寿司に唾液をつけたりした未成年の少年たちが逮捕され送検された事件がありました。これも食に絡んだ子どもの問題の一つと言えます。
これまで飲食店におけるトラブルといえば、無銭飲食や反社会的組織によるみかじめ料の問題、客や店主の粗暴行為、食材の産地偽装、食材偽装、消費期限偽装、食中毒などが知られてきました。
しかし近年、スマホの普及から、客が迷惑行為を行い、その様子を自身や周囲の人間が動画や写真を撮ってSNSに投稿するといった「飲食店テロ」と呼ばれる行為も加わったと言えます。
先の事件に関わった少年たちは「回転寿司店で面白いことをしたいと考えた」らしいですが、こういった逮捕されるケースまで至らなくとも、みなさんもSNSが絡んだ飲食店での迷惑行為を身近に感じることがあるのではないでしょうか。
おしゃれな飲食店に行き、豪華な食事を目の前にすると、ついスマホで写真を撮りたくなってしまうかもしれません。
大切な食事を思い出に残しておきたい、この感動を誰かに伝えたいといった気持ち自体は自然な感情だと思います。私の高齢の母でさえも、外食では食べる前に写真を撮りたがります。
しかし、写真を撮ることに夢中になり肝心の料理が冷めてしまった、味に集中できなかった、見映えを重視し過ぎて量を頼み過ぎた、などの理由でいわゆる「映える」写真だけを撮って、料理そのものを食べなかったり、ほとんど残してしまったりすることになると、それだけで飲食店への迷惑行為にもなりかねません。
その根底には、「お金さえ払えばたとえ食べ物を粗末にしても文句はないだろう」という考えさえ、透けて見えてしまいます。
「食べたくても食べられない人たちがいる」という言葉は、おそらく誰もが子どもの頃から何度も聞かされていて、「何をいまさら」と思われる方も多いかと思いますが、欠食で苦しんでいる子どもの姿を思い浮かべますと、その真の意味を理解して子どもたちに教えつつ、食を心から楽しんでもらうことは本当に難しいことだと考えます。
「見た目が9割」という言説は食も例外ではなく、飲食店以外の日常の食事でもこうした考えが浸透しつつあります。例えばキャラ弁です。子どもに少しでも喜んでほしいという親の思いもありますし、手間がかかるので親の愛情がぎっしりと詰まった弁当のようにも見えます。
しかし、見た目を重視し過ぎるあまり食品添加物の多い色鮮やかな食材を選んだり、使える食材が制限されたりして、栄養が偏る可能性もあります。
また元の食材の形が消え、子どもがいったい何を食べているかわからなくなること、細かい手作業をし過ぎると細菌が繁殖し食中毒のリスクが上がることもあり、子どもへの食育面からは必ずしも好ましいとは言えないでしょう。
もしキャラ弁制作の主目的がSNSへの投稿であれば、飲食店での迷惑行為をそのまま家庭に持ち込むことにもなり、子どもの食環境に望ましくはないものと言えます。
SNSは長い人類史においてほんの最近出現したものですが、すでに幅広い分野にさまざまな影響を及ぼしています。
食の領域も例外ではなく、ここで扱った飲食店へのテロ行為もSNSがなければ起きていなかったかもしれません。すでに本来の食の意義や楽しみから逸脱し、食への冒涜行為にもなっているのです。
宮口幸治(みやぐち・こうじ)
児童精神科医・医学博士。立命館大学総合心理学部・大学院人間科学研究科教授。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務し、2016年より現職。医学博士、子どものこころ専門医。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。著書に『ケーキの切れない非行少年たち』、『どうしても頑張れない人たち』(いずれも新潮新書)、『境界知能の子どもたち』(SB新書)などがある。
『児童精神科医が教える こころが育つ! 子どもの食事』
宮口幸治[著]
CCCメディアハウス[刊]
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