秋になると川を遡上する「シロザケ(秋鮭)」がスーパーに並ぶ季節となり、シロザケの筋子を店頭で見かけることも増えてくる。新鮮な生の筋子からイクラの醤油漬けを作ってみたいという人も多いのではないだろうか。

新鮮な生の筋子(画像提供:魚食普及推進センターHP)
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ただ、シロザケはアニサキスに注意が必要で生食NGの魚種だ。産地では昔から、冷凍して「ルイベ」にしたり加熱して「ちゃんちゃん焼き」にして食べてきた。そして、シロザケの内臓である筋子もアニサキスがいる可能性がある。

“おいしく楽しく安全に魚を食べる方法”を発信する魚食普及推進センターの早武忠利さんに、生の筋子から安全においしいイクラ醤油漬けを作るレシピを聞いた。

網で筋子をバラバラに

寿司ネタでも人気のイクラは、そもそも鮭のお腹の中から取り出した筋子を一粒ずつバラバラにして味付けしたものだ。イクラの状態になったものも売られているが、シロザケが売られる今の時期は家庭で筋子からイクラを作ることもできる。

魚食普及推進センターの早武忠利さん

「鮮魚店で作られたイクラはプロの目でしっかりチェックされているのでアニサキスの心配はありません。けれど、筋子から自作する場合は少し注意が必要。これから紹介する方法は私が水産加工工場や鮮魚店にも聞いたもので、初心者でも簡単にできます。ぜひ覚えて、『秋といえばイクラ!』とソワソワする人生を送ってください。ポイントはバラバラにしてからお湯に入れる事。順番が逆だと夜中に長時間膜を取り続けることになります」

では、さっそく作り方を見ていこう。

まずは筋子を用意(画像提供:魚食普及推進センターHP)

(1)筋子を買う
「粒が大きいものがお勧めです。走りの時期から時間が経つと値段は安くなる傾向がありますが、油断するとシーズンが終わってしまい手に入らなくなるので、食べたい時に思い切って買いましょう」

網に押し付けながら筋子をバラバラにしていく(画像提供:魚食普及推進センターHP)

(2)網で筋子をバラバラにする
「ボウルか丼の上に2センチ角程度の網を置きます。網の上に筋子を置いて、上から円を描くように押してイクラをポロポロと落としていきます。最後は上からしっかり押さえてもう一方の手で膜を引っ張ると綺麗にはがれます。イクラは川の中で石や砂に埋められて孵化を待つので、力強く押しても割れません」

イクラを塩水(1-3%)で洗う(画像提供:魚食普及推進センターHP)

(3)塩水(1-3%)でざっと洗う
「バラバラになったイクラを塩水に入れて洗い、膜やぬめりを取り、塩水を捨ててください。濁りが無くなるまで2、3回行います」

イクラを湯に通す

(4)70℃程度のお湯に入れて1分間、お玉で混ぜながらお湯の中をまんべんなくイクラを泳がせる

70℃程度の湯を注ぎ、お玉でかき混ぜてイクラを泳がせる(画像提供:魚食普及推進センターHP)

「厚生労働省によると、アニサキスを殺すには『60℃で1分以上』か『70℃以上』で加熱するのがお勧めとのこと。70℃のお湯にイクラを入れてかき混ぜ、1分後に温度を計って60℃以上だったら条件を満たします。なお、お湯が熱すぎるとイクラの膜が弱くなり破けやすくなるのでご注意ください」

氷水で冷やす(画像提供:魚食普及推進センターHP)

(5)氷水に入れて冷やす
「イクラをザルに上げて、すぐに氷水に入れて冷やします。お湯に入れると白くなるイクラもあり、『失敗した!?』とドキッとしますが、味付けするタイミングで透明感は戻るので安心してください」

味付け液を入れる(画像提供:魚食普及推進センターHP)

(6)イクラ:味付け液=3:1の割合で味付けする
「味付け液は事前に準備します。味付け液は、醤油:日本酒:みりん=1:1:1の割合で、一旦沸騰させてアルコールを飛ばして常温まで冷やしておきます。味付け液が多いと、イクラがはちきれるほど張ってしまう傾向があります。私はそちらの方が好きですが、お好みで液の量を変えてください。今年のイクラは大成功!等と食卓の話題にしても楽しいですね」

完成!ご飯にのせて味わってみよう(画像提供:早武忠利さん)

(7)5~6時間置いて完成!
「翌朝、味がしみ込んだら、よく噛んでイクラの食感を感じながら潰して味わってください!生ものなので、3~4日で食べ切ることをお勧めします。食べきれない分は小分けにして冷凍すればしばらく楽しめます。冷凍しても破けないのがイクラの素敵なところです」

お湯に通さないレシピも

「冷凍をする前提であれば、お湯に通さずに(4)(5)を省いて味付けしてから冷凍してもアニサキス対策になります。経験上、家庭用の冷蔵庫でも1週間冷凍すればアニサキスは死んでいるでしょう。ご飯の上にのせて数分放置すれば、自然に解凍して食べられます」

ちなみに、季節外や、海外品の筋子やイクラはほとんどが冷凍なのでアニサキスの心配は不要だ。

最後に、早武さんは鮭にまつわるこんな話をしてくれた。

「幼少期、毎年秋に北海道の叔父から鮭が1尾届くのが楽しみでした。岩手出身の母がさばきながら、シロザケはアニサキスが多いから刺身で食べないという話を毎年教えてもらいました。家庭内で話されていたこのような情報が忘れられがちですが、正しい知識を知ることで楽しみながら安全に旬を楽しめます。そういえば母方の実家では、お正月のお雑煮には必ずイクラが入っていました。白いお餅の上に乗っていて色合いが美しいのです。お正月までイクラを少量冷凍して、試してみてはいかがでしょうか」

参考:魚食普及推進センターHP(https://osakana.suisankai.or.jp/s-other/7258)

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早武忠利(はやたけ・ただとし)
一般社団法人大日本水産会魚食普及推進センター事業課長、水産庁長官任命「お魚かたりべ」、キッズキッチン協会理事、官民連携フォーラム江戸前ブランド育成PT副PT長。琉球大学卒、東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。専門は保全生態学、生態学、形態学。著書に、『ハヤタケ先生の魚食大百科』(少年写真新聞社)、『科学で考える食育絵本 魚の教え』(上・下/群羊社)監修。

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