厚生労働省がおととし行った調査では「人生の最期をどこで迎えたいか」という質問に対して「自宅」と答えた人が43.8%と最も多くなりました。「住み慣れた場所で最期を迎えたいから」、「家族との時間を多くしたいから」など理由はさまざまです。こうした中、仙台市出身の映画監督が、末期がんの父親を仙台の自宅でみとった記録をドキュメンタリー映画にしました。10月11日、県内で公開を迎えます。看取りの過程で見えてきたのは、高齢化社会の現実や課題でした。
村上浩康監督
「これから誰でも、いつかみとりみとられる。人間生きている限り。その日を迎えるための、あるいは今直面してる方のひとつの参考になれば幸いかなと思います」
こう話すのは仙台市出身の映画監督、村上浩康さんです。東北学院大学を卒業後、東京を拠点にドキュメンタリー映画などを制作しています。来週金曜日に青葉区のフォーラム仙台で最新作が公開されます。
ドキュメンタリー映画「あなたのおみとり」。末期がんの父を仙台の実家でみとった42日間の記録です。
村上浩康監督
「僕自身も、近親者・家族をみとるっていう経験は初めてで、カメラを通して初めて、日本の高齢化社会の抱えるいろんな現実とか問題が垣間見えてきた。もしかしたら多くの人はこれから体験したり、今直面しているいろいろな問題に共通するような、普遍性があるかもしれない。そこからもう本当につぶさに撮ろうって取り組んだ」
仙台市にある村上監督の実家では、当時91歳の父・壮さんと、86歳の母・幸子さんが2人で暮らしていました。末期がんの父が最期を迎える場所について、入院先の医師からは自宅か、終末期ケアの「ホスピス」の2つを打診されました。父の「うちに帰りたい」という言葉を受けて、母・幸子さんが自宅でのみとりを決意したといいます。
去年6月から始まった自宅でのみとり。母の幸子さんも高齢で、いわゆる「老老介護」状態でのスタートとなりましたが、元々、幸子さんが県の福祉関係の職員を経験していたこともあり、最初は母1人で介護ができると思っていたと監督は話します。
村上浩康監督
「実際ちょっとやってみたんですね。父をベッドまで起こして。最初はベッドの脇の便器に体を移すだけでもものすごく大変なんですよ。移される父も慣れていない人がやると痛がる。やっぱりプロじゃないとこういうことはできないなと」
体力の衰えた高齢の母だけでの介護は、現実的に難しいものがありました。そこで村上監督が感じたのは、訪問医師や看護師、ヘルパーなど、医療と福祉の力の大きさでした。
村上浩康監督
「うちの父の場合、お医者さんが週に1回診療に来て、看護師さんが週2回。ヘルパー(訪問介護員)は一日おきに来て、最後の1週間ぐらいはもう毎日、1日2回来て、おしめを交換してくれたり、体を拭いてくれたり。本当に身体介護にまつわるすべてのことをやっていただいて」
介護保険制度を利用したことで介護の負担は軽減され、適切な医療と介護を自宅で受けることができたという村上監督。父の介助に関わった職員には、感謝の気持ちでいっぱいだと話します。
村上浩康監督
「やっぱりその父との体に直接触れる仕事。そこで感じる肉体的な接触が、たぶん父にとって社会との最後のつながりだと思う。父が亡くなるまで人間として、あるいは生命としての尊厳みたいなものを保ってくださった。本当に感謝の気持ちでいっぱい」
同時に、介護を必要とする人の多さに驚いたとも話します。
村上浩康監督
「ヘルパーがうち(父の介護)が終わるとまたすぐ行くんですね。1日何件も近所を回っている。うちの近所だけでも、こんなに介護を必要とする人がいるんだっていうこともわかりました」
作品では、母・幸子さんが体調を崩してしまい、病院に行く間、近所の人に留守番を頼むという場面も描かれています。
村上浩康監督
「今、災害も多いですけど、各地ですぐ救助などが来てくれるとは限らない。そこに住んでる地域の人たち同士で助け合わないといけないので、高齢者地域ほど、ご近所付き合いが実は重要なライフラインになっているというのがものすごくわかって…」
総務省が行った調査では、実は自宅でみとる割合は約70年前と比較すると4分の1程度まで低くなっていて、日本では現在、7割の人が病院で最期を迎えています。一方、高齢化社会の今、2060年には日本の人口の4割が高齢者になるという試算もあり、今後、在宅医療・在宅介護のニーズは高まり続けることが予想されています。
村上浩康監督
「この映画ができた時に、母に見せたんですよ。母が最初に言ったのは、この映画を見ると、いろいろな医療とか福祉の制度があって、それを活用した結果、本当に母が1人でも父をみとることができたので、自宅でのみとりを迷っている人の参考になればいいなって」
人生の最期を、自分の希望の場所で迎えられるように…。村上監督は、映画のタイトルに込めた思いも合わせて、多くの人に届いてほしい作品だと話します。
村上浩康監督
「この映画は『あなたのおみとり』というタイトルなんですけど、このあなたっていう意味は、この映画を観てくださるすべての「あなた」方に。いずれ自分も、自分の近しい人も別れが来る。そういうことをちょっと考えたり、家族とかと話すきっかけになればいいかなと。そういう意味でもこの映画を観ていただければ幸い」
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