ミラーボールが設置されたロビーで、参加者が音楽に合わせて思い思いに体を揺らした=岡山県真庭市鍋屋の久世エスパスホールで2024年9月22日午後7時8分、平本泰章撮影
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 好きな音楽に乗って自由に踊る。当時を知る人も知らない人も、その単純明快な楽しさに酔いしれた。岡山県真庭市の文化ホールで、1980年代にブームを巻き起こしたディスコが一夜限りで復活。市内外から約80人が集まり、懐かしのヒットナンバーに合わせて思い思いに体を揺らした。

 9月22日、真庭市役所の向かいにある「久世エスパスホール」のロビー。午後7時、会場にかつてのブームを盛り上げたDJOSSHYさん(59)が登場し、ビージーズの「恋のナイト・フィーバー」がかかると、談笑していた参加者が徐々に集まってステップを踏み始めた。「今夜のキーワードは『あなたが主役』です!」「ディスコが初めての人も、見よう見まねでお過ごしください。ナイトフィーバー!」などとOSSHYさんが声を上げると、会場の熱気は加速度を増して高まっていった。

 KC&ザ・サンシャイン・バンドの「ザッツ・ザ・ウェイ」や、参加者からリクエストがあったラッツ&スターの「め組のひと」など70~80年代のヒット曲が次々と流れる中、お立ち台に上がって扇子やペンライトを振ったりする人も。色鮮やかなサイリウムを手に大きくリズムを取っていた市内在住の女性(73)は「若い時に何度か行ったけど、ディスコは私たちの憧れだった」とほほ笑み、「音楽が好きだし、体を動かせばストレスも発散できて最高」と声を弾ませていた。

懐かしいけど新しい

イベントを盛り上げたDJ OSSHYさん=岡山県真庭市鍋屋のエスパスホールで2024年9月22日午後7時0分、平本泰章撮影
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 イベントは、指定管理者として施設を運営する公益財団法人「真庭エスパス文化振興財団」が初めて企画した。発案者で事業推進課の野村幸子さん(44)は「昔を懐かしみつつ、みんなで一緒に踊れたら絶対楽しいだろうという単純な思いで動き始めた」と明かす。

 運営に関わったメンバーは40代以下が中心で、かつてのディスコを知る人はいない。それでも、「『昔懐かしい』が今は若者に受けているので、“クラブ”ではなくディスコだと。『懐かしいけど新しい』という空間を目指した」と野村さん。ユーチューブでディスコイベントの様子を見て研究し、照明や演出を見よう見まねで作り上げた。

 OSSHYさんは近年、親子で体を動かす「ファミリーディスコ」や、高齢者対象の「シルバーディスコ」などのイベントを各地で開催し、安心、安全で健康的なディスコの魅力を伝える活動に尽力している。「昔は『不良が行く場所』というようなダーティーなイメージを持たれることもあったが、クリーンな環境を提供することで、近年は自治体のホールや公民館などで開催できる環境になってきた」と実感を込める。

健康マージャンに続け

1970~80年代の音楽で盛り上がる参加者ら=岡山県真庭市鍋屋の久世エスパスホールで2024年9月22日午後7時4分、平本泰章撮影
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 その状況は飲酒、喫煙、賭け事といった負のイメージを払拭(ふっしょく)し、競技そのものを楽しむ文化として認知度を高めてきた「健康マージャン」にも似ている。頭脳戦のマージャンは認知症予防につながると注目を集めているが、ディスコも高齢者の健康維持に役立つ。OSSHYさんは「音楽に合わせて体を動かす行為はすごく体にいい。高齢者施設のイベントでは、いすに座った状態で上半身だけ動かして楽しんでいる」と力を込め、こう続けた。「世代や性別、障害などすべての垣根を越え、誰もが一緒に楽しめる。そんな時代が来るように、少しでもお手伝いしていきたい」

 野村さんにも、似た思いがあった。「今回は昔を懐かしんで楽しんでもらうのが狙いでしたが、これを機にファミリー層やシルバー層などに輪が広がっていけば、地域のみんなが元気になり、笑顔になれると思うんです」。高齢化や人口減少に悩む山間部の町であっても、音楽と体を動かすスペースさえあれば、老若男女が一緒に楽しめる。公共施設のロビーに輝いたミラーボールが、ディスコの潜在能力を実感させる一夜になった。【平本泰章】

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