知多半島にはせっかく可愛い牛たちがたくさんいるのに注目を浴びることは中々ない…そんな想いから、藍染との異色のコラボで彼らにスポットライトを当てようとする職人がいる。

「知多半島で面白いことをやってる人がいるぞと、藍染を使って盛り上げたいんです」

そう語るのは「紺屋のナミホ」店主の桑山奈美帆さん。穏やかな雰囲気漂うものづくりの町・愛知県常滑市で藍染と向き合っている。知多半島では唯一の藍染屋だ。

藍染の工房「紺屋のナミホ」店主・桑山奈美帆さん
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隣接する半田市出身の桑山さんは藍染を使って地元を盛り上げようと、知多半島で多く飼育されている「牛」をモチーフとした商品を展開している。

約2年の工程を一手に担う

藍染は奈良時代から続く日本の伝統的な染色技法。染料が完成するまでに約2年という期間が必要だ。染料の元となる蓼藍(たであい)を栽培する藍農家、収穫した蓼藍を発酵させて染料をつくる藍師、実際に染色を行う染師の分業で行われるが、桑山さんはこの途方もない作業のすべてをスタッフと共に一手に担っている。藍師の減少により材料の入手が困難なためだ。

なぜ大変な思いをしてまで、知多半島での藍染にこだわるのか。そこには、地元に対して抱える情熱があった。

「教え手」がいない・・・ 思わぬ壁からのスタート

「実は元々知多半島では藍染が盛んに行われていたんです。一度、廃れちゃって」

桑山さんによると、明治時代末期に化学染料が広まるまでは知多半島全域で染物が盛んに行われていたという。元々県外のアパレルメーカーで勤務し染物に興味を持っていた桑山さんは、地元の高齢者から話を聞いて衝撃を受けた。
「なんで藍染やらないんですかって聞いたら、もうあんな難しいことをやってられないから今は全部化学染料だよって。それを聞いてモヤッとして、なんだかすごくもったいないなと感じました。いてもたってもいられなくて、もう自分でやるかって」

取材する德田聡一朗アナ

とはいえ、藍染めは知多半島では既に消滅した文化だ。技術を学ぼうにも師となる人が見つからない。
「最初にぶつかった壁が、教えてくれる人がいなかったことです。1年半ほど転々としました」

各地の藍染屋を訪ねて回り、やっとの思いで受け入れてもらえた岐阜県の職人のもと3年間修業して地元に戻った。常滑市で工房を立ち上げた桑山さんは、知多半島全体を盛り上げたいという想いから、ある試みをスタートさせる。

牛乳も使用!牛柄の藍染商品を新展開

「地域に根差した商品を展開したいと思いました。子供のころから『知多半島は牛の臭いがする』って結構言われてたんですけど、それを逆手にとった商品展開で話題になったら面白いよねって」

内海に囲まれた穏やかな風土の知多半島では、古くから畜産業が盛んだ。桑山さんはそこに目を付け、牛柄の藍染商品を製作することを決めた。靴下やタオルを丸めた状態で縛り、そのまま藍染を行うことで、ホルスタインが持つまだら模様を表現することができる。深くまで浸透せず、主に表面のみを染めることができる藍染の特徴を利用したものだ。実際に完成品を見せてもらうと、綺麗な藍色と牛を思わせる模様がマッチしてなんとも可愛らしい。

さらに模様だけでなく、染めるまでの過程で知多産の牛乳も使用している。藍で染めるための下準備の段階で、布に牛乳を染み込ませるのだ。そうすることで通常の藍染と比べてより一段色が濃くなるという。

「最初は別の柄にしようとして失敗しちゃったのがキッカケです。スタッフと『これ、なんだか牛っぽいね』という話になって。ならせっかくだからもっと牛と絡めようという話になって、牛乳を使用することになりました」

使用する牛乳は地元の学校給食で余ってしまったものや、カフェで大量に仕入れたものの消費しきれなかったものを再利用している。賞味期限が切れてしまった牛乳も、こうした藍染の下準備に使う分には問題ないという。使用する材料もとことん地元産にこだわり、周囲の人を巻き込んで知多半島を盛り上げる桑山さんの想いを聞いた。

地元を盛り上げるために

「知多半島って観光地としてすごく面白いのに、そんなに注目を浴びてなくて。もっと沢山の人に遊びに来てほしいんです」

桑山さんは地元で藍染を広めるだけでなく、知多半島を知ってもらうキッカケにしたいのだという。「知多半島を離れていた頃は地元に戻ることはないと思っていました。でも20代後半になると、同年代の子がカフェを立ち上げたり、雑貨屋さんを始めたり…地元のために頑張り始めてて、地元がこんなに盛り上がってるのに、私は外で何やってるんだろうって。急いで帰りましたね」

地元で同年代の友人が頑張っている。そんな姿を見て、共に頑張りたいという気持ちが芽生えたそうだ。そんな桑山さんが目指すのは、藍染を知多半島の魅力の一つとして観光目的になるまで浸透させること。既に知多半島の土産物店での取り扱いの話も進んでおり、夢の実現に向けて一歩ずつ進んでいる。

知多半島で失われた藍染をもう一度。
職人が紡いできた伝統を守りつつ、時代に合わせて常に新しいものを作り続け、知多半島を盛り上げたいと語る桑山さん。地元への”愛”で染め続ける彼女の壮大な夢を、これからも応援したい。

(取材・執筆:フジテレビアナウンサー 德田聡一朗)

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