週替わりランチの「イタリアンハンバーグとアジフライ」。野菜類が半分を占める=甲府市の山梨県庁で2024年9月25日午後1時24分、米江貴史撮影

 「早い」「安い」「ガッツリ」――。県庁や市役所などの職員食堂では定番のイメージではないだろうか。山梨県庁の食堂は“ひと味”違っている。「野菜たっぷり」「玄米も選べる」とヘルシー志向。2021年11月に「路線」を転換し、一般客も増えてグルメサイトに紹介されるほどのランチスポットになっている。【米江貴史】

 記者が出張で県庁を訪れた日の正午過ぎ、本庁舎地下1階の食堂前には長い列ができていた。女性が比較的多く、近隣の事業所の制服姿の一般客も見られる。記者も列に並び、週替わり「イタリアンハンバーグとアジフライ」を注文した。

 出てきたのは、ガッツリ系とは雰囲気が違う一皿。小さめのハンバーグとアジフライがちょこんと収まり、サラダなど野菜、副菜の大学芋とだし巻きたまごが取り囲んで皿の半分以上を占めている。ご飯は玄米も選べる。

 気になるお値段は650円。一昔前の感覚ではやや高いと感じたが、近年の物価高などを考慮すると、ヘルシー志向のランチとしては値ごろだ。

 運営は甲府市内のレストラン「ナチュラルグレース」。本店は市街地から離れているが、野菜たっぷりの料理が評判の店で、県立大の食堂も運営している。県庁食堂の渡部典希花(ふみか)店長によると、「ワンプレートにメインディッシュとたっぷり野菜」「コメと卵と豚肉は県産」「自家製ドレッシング」という本店の方針はそのまま。前業者時からのスタッフは「利用者はかなり増えた」と実感しているという。

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昼食の時間帯、入り口前が長蛇の列となっていた山梨県庁食堂=甲府市の山梨県庁で2024年9月30日午後0時14分、米江貴史撮影

 県庁内の食堂は職員の福利厚生の一環で、安価な食事の提供が目的だ。グルメスポット化するほどになるには、何があったのか。

 担当の県職員厚生課によると、県庁食堂は地方職員共済組合が契約した業者が運営している。業者の選定は県側の定めた方針を元に、最も優れた運営内容を提案した業者と契約する「プロポーザル」方式だ。契約は4年。更新時には職員の要望などを踏まえたテーマを設定し、募集している。

 以前は大手給食会社が運営しており、料理も雰囲気も一般的な職員食堂だったという。利用状況は「そこそこ」だったが、職員から「女性1人でも入りやすくしてほしい」「県産食材の活用を」「サラダなど野菜を使ったメニューを充実させて」など注文があった。

 県側は前回21年10月の契約更新時、これらの要望を踏まえたテーマを提示。数社の応募があり、ナチュラル社からは野菜中心メニュー、富士桜ポークなど県産食材の活用などの提案があった。「安全性」「健康志向」など評価点が高かった同社が選定された。

サイトにも登場

 利用状況は、契約更新前(20年)が1日平均232食だったが、リニューアル翌年の22年は300食に増えた。昨年は物価や人件費の高騰で100円値上げしたが、それでも320食、今年(9月現在)は多い月で330食と伸び続けている。職員からは「安くて野菜の量もたくさん」「同じ価格で玄米か胚芽米かが選べて健康的」「レストランのようだ」と歓迎の声。本店の知名度の高さもあり、グルメサイトにも登場。「安くてヘルシー」など評判は上々だ。

 県庁食堂は、県産食材を活用してアピールする側面もある。一方で調達コストが課題となることが多い。ナチュラル社の三村正治オーナーによると、独自の調達ルートの活用や食券制にして精算要員のコスト削減などを図っているという。三村オーナーは「好評でもあり期待に応えていければ」と話している。

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