2024年春から、山形市の酒蔵で蔵人として働き始めた元消防士の男性がいる。山形県産の日本酒に魅了された男性は、異色ともいえる転職を経ておいしい酒造りを目指す。夢は「自分がプロデュースした日本酒を造る」ことだ。
老舗の酒蔵 新人の蔵人は元消防士!
山形市の老舗の酒蔵「秀鳳酒造場」は、2023年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、県内有数の酒蔵だ。新米を使って醸造した日本酒が出回る今の時期、秀鳳酒造場でも蒸した酒米を仕込む作業に追われていた。
この記事の画像(12枚)「蒸し上がりもいい状態なので、おいしいお酒になるんじゃないか」と話すのは、2024年4月に秀鳳酒造場に就職したばかりの新人の蔵人・那須是清さん(29)だ。
蒸した酒米をタンクに運び込み、年末にかけて絞る新酒を仕込む作業。蔵人になってまだ半年の那須さんだが、最近、酵母を発酵させるタンクの温度管理などを任されるようになった。
タンクは巨大なため、同じタンク内でも上と下では発酵温度が異なる。発酵温度のムラをなくすための「かい入れ」作業も那須さんの仕事だ。
那須さんは「お米を強くつぶさないように、大事に優しくかき混ぜるように意識している。そうすることによって味わいの雑味が減ったりまろやかになると言われている。経験年数でやはり『こういう状態だ』という変化が感じられるが、まだ私は経験が浅いのでなかなか難しい」と、作業の複雑さを語る。
そんな那須さんに以前の職業を聞いてみると、2024年3月まで消防士として働いていたという。
「消防士という仕事も、人の生命や財産を救うという意味で、とても魅力的かつやりがいのある仕事だった」と那須さんは振り返る。
「業界に入って日本酒を造りたい」
消防士の仕事にやりがいを感じながらも、もともと日本酒が大好きだったという那須さんは、「利酒師」「日本酒品質鑑定士」の資格を取るうちに、日本酒を造ってみたいとの思いが大きくなっていった。
那須さんは、「居酒屋で飲んだ忘れられないお酒があって、その時の衝撃を今でも鮮明に覚えている。日本酒の味わい・文化・歴史を読み解く中で魅了されてしまった。絶対、私もこの業界に入って日本酒を造りたいという思いが芽生えました」と、日本酒の魅力を知ったきっかけを語る。
いくつもの酒蔵を見学する中で、秀鳳酒造場の酒づくりに魅力を感じ、「飛び込んでみよう!」と一念発起した。「全国トップクラスの酒米の種類数を誇る、そこから出る幅広い味わいが秀鳳の魅力」と、那須さんは話す。
那須さんが相談したのは、酒造りの司令塔と言われる「杜氏(とうじ)」の相田勝之さんだ。那須さんは、相田さんの自宅を訪ねて頼み込んだ。
相田さんは「熱い思いをどんどんぶつけられて『熱すぎるなあ!』というくらい、夜遅くまで思いを聞いた覚えがある」と当時のことを振り返る。
那須さんの思いの強さを見て、相田さんは迎え入れることを決めたそうだ。相田さんは「頼もしい限りです。こうやって若い人がどんどん育ってくれれば、我々も安心して酒造りを伝授できる」と喜びを語る。
“自分がプロデュースした日本酒”を
そして、那須さんが初めて酒造りに携わった新酒が、11月にでき上がった。
那須さんは「生酒の特徴であるフレッシュ感、ピチピチ感が顕著に表れている」と新酒の魅力を語り、「(店で注文されるのを)目の当たりにしたら、うれしくて涙が出ると思います」と、笑顔で話す。
今はひたすら修行の毎日の那須さんは、いつか自分がプロデュースした日本酒を造ることが夢だ。「知識と技術を習得して、まずは蔵に貢献するというところをやっていきたい。一蔵人として県内のお酒を盛り上げていければ」と、日本酒への思いを語る。
国税庁によると、この20年で全国の酒蔵の数は高齢化などの影響で、2000社から1200社にまで激減している。那須さんのような若手は、日本酒業界全体にとっても貴重な人材と思われる。おいしい酒造りを目指して、那須さんの挑戦は続く。
(さくらんぼテレビ)
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