「あのニュースの今」の3回目は「農業」。大雨による過去最大の被害・高温による農作物への多大な影響など、これまでにない苦境に立たされた。一方で「産地の維持」に向け、今後の気候変動も見据えた大きな「転換点」となる1年でもあった。

(リポート)
「酒田市上空です。水田が広範囲で冠水しています」

ことし7月の大雨は、県の基幹産業である「農業」にも甚大な被害を及ぼした。

(リポート)
「荒瀬川がはん濫した橋の近くです。こちらは農業用ハウスでしょうか、原型をとどめず崩れています」

(住民)
「全部あっちまで畑だった。全部だめだな」

大雨から一夜明けると、稲・野菜・果物など、生産者が手塩にかけて育てた農作物の無残な姿が…。

(刈屋ナシ農家・小松賢さん)
「根こそぎナシの木と頑丈なナシ棚、そっくり何もなくなっていたと。(Q.木ごと?)そうです、何もない」

特産品の生産現場でも…。

(リポート)
「本来はレーンの上に置いてあったはずの瓶が至る所に散乱しています」

(箕輪鮭漁業生産組合・佐藤仁組合長)
「今まで経験したことのないような水の量。2カ月するとサケも遡上してくる。それまでに何とか準備を整えていきたい」

コメどころ庄内では、収穫を前に大規模農業施設も水に浸かった。

(JA庄内みどり 松山カントリーエレベーター利用組合・佐藤伸二組合長)
「この線のところまで水が上がった。全部この下が水没した状態。ここが動かないということは、心臓部なので施設全部が動かない」

大雨による農林水産関係の被害額は、現時点で293億円。風水害としては過去最大の被害だ。
さらにことし表面化したのが「気候変動による農業への影響」。

(やまがたファーム・丹野菊男代表)
「本当だったらズラッとここにコメがあって、そのほかに台車に3つコメ袋を並べる。なくなったら新米出るまで待ってもらう。辛いですね、米屋としては」

2023年の高温の影響などで、夏場にはスーパーのコメが一時なくなる事態に。そして秋…。

(リポート)
「先月(9月)上旬まではコメの品薄状態が続いていましたが、徐々に新米が入るようになり、現在は棚の端から端までしっかり商品が並んでいてコーナーは充実しています」

新米が出回り始めると供給は改善されたが、価格は高止まりのまま。今も家計への影響は続いている。

(客)
「やっぱり高いですね。2倍近い」

コメ不足を受け、県は6年ぶりに「コメの増産」を決定。2025年は32万6300トンの生産を見込む。

気候変動の影響は、生産量日本一のサクランボでも、「双子果」という形で表面化した。

白田アナ「すぐわかりました、双子果。ことしは多いんですか?」
大沼さん「多い。例年よりずっと多い。もうがっかり…今年はがっかり」

(リポート)
「最盛期の佐藤錦が売られる中、双子果だけのコーナーがあります」

(宮城から)
「普通のより面白いなと、子ども受けがいいかなと思って。帰ってからの反応が楽しみ」

そして主力の「佐藤錦」の収穫期に追い打ちをかけたのは、6月としては異例の高温。

(サクランボ農家・植松真二さん)
「この辺はもう商品にならない、収穫するまでもない。こんな光景見たことない」

「佐藤錦」を中心に「うるみ果」が大量に発生した。

(サクランボ農家・植松真二さん)
「生育期間、本当は膨らんでいく途中で暑すぎて熟す方向に行ってしまったので、小さいまましおれていった」

ことしのサクランボの収穫量はわずか8590トン。「平成以降で2番目に少ない」記録的な不作だった。

(サクランボ農家・植松真二さん)
「ただただ辛いしか言葉が出ない。来年に向けてやれることをやりながら、何が何でも来年こそはと踏ん張るしかない」

「紅秀峰」や「やまがた紅王」の開発に携わった東北農林専門職大学の石黒亮准教授は「温暖化が進む中で、ことしは『佐藤錦』を育て続ける難しさを感じた1年だった」と話す。

(東北農林専門職大学・石黒亮准教授)
「ことしは(佐藤錦の収穫を)回り切れなかったと気付いている生産者がいると思う。産地としてサクランボをどう守っていくか考えさせられる年になったのでのはないか」

サクランボの高温対策として、県は直射日光を遮る「遮光資材」や、水をまくことで温度を下げる「散水設備」の導入に補助金を出している。
それでも、日本一の産地を守ることは簡単ではない。

サクランボの栽培に適した気温は、1月~10月の平均で「14℃~21℃」。これに対し、山形は1900年には17.4℃と栽培に適した気温だったが、2024年は20.9℃と大幅に上昇。
今後、山形が21℃を超え、サクランボの栽培に適さない気温になってしまう可能性もある。

一方で、山梨・青森などに加え、近年サクランボの生産地として名前が挙がるようになってきたのが北海道だ。
4月~10月の平均気温を見ると、1900年には14℃を下回っていたが、今では十分に栽培に適する気温まで上がってきている。

(石黒亮准教授)
「栽培適温の地域に当てはめると少し北上していると思う。従来の適温を超えてしまっている状況が全国的なレベルで出ているのは事実」

それでも石黒准教授は、サクランボの「日本一の産地」として、山形の存在感は簡単には揺るがないと強調する。

(石黒亮准教授)
「産地として適温を広げる努力・暑さに対応する努力は、さまざまな栽培手法・今までのノウハウもあるので、そう簡単に産地は北上しない」

現在、県内のサクランボのシェアは65%以上をトップブランドの「佐藤錦」が占めているが、「佐藤錦」は暑さにはあまり強くない品種。
そこで県が高温対策として提案しているのが「品種の転換」だ。

「佐藤錦」を減らし「紅秀峰」「やまがた紅王」など、実が硬く暑さに強い品種への植え替えが進むよう支援を始めている。
「サクランボ県」としてのブランドを守るため、ことしが大きな転換点となるかもしれない。

(石黒亮准教授)
「サクランボにビジネスチャンスを見出してきた先人の山形魂は非常に連綿として残っている。それを次の世代につないでいく。そのために生産者・技術開発・行政施策と支援が三位一体となって回していくことが大事」

サクランボの品種転換は、木を植えてから農家の収入が安定するまで10年かかると言われている。石黒准教授は、温暖化が進むことを見据え、少しずつ進めていくことが産地を守る第一歩としている。

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