「洗練され、思い切った万博を」と語るコシノジュンコさん=東京都港区(三尾郁恵撮影)

「万博は文化。商売ではない」。2025年大阪・関西万博のシニアアドバイザーを務める世界的デザイナー、コシノジュンコさんは言い切る。好奇心に従って挑戦を続け、モードの最先端を走り続けてきた。13日で万博開幕まで1年。1970(昭和45)年以来の大阪開催に「世界中のプロを感動させるプレッシャー」を覚えながらも、目指すのは、各国の文化や技術の粋を集めた「洗練された万博」だ。

大阪出身のコシノさんは、日本にとっての70年万博を「世界の文化や情報を共有した初めての経験」と評する。当時31歳。駆け出しのデザイナーとして、パビリオン3館(生活産業館、ペプシ館、タカラ・ビューティリオン)のユニホームデザインを担当した。

ミニスカートの白いワンピース、ビビッドな赤のロングコート、そしてイエローのパンツスタイル。デザインは相異なるが、「ファッションを着る」という共通テーマを持たせた。「初めて見て、着るデザイン。万博特有のファッションがその後、一般に普及した」

1970年万博で担当した3つのユニホーム。左からタカラ・ビューティリオン、ペプシ館、生活産業館=令和3年6月、国立新美術館の企画展「ファッション イン ジャパン 1945―2020 ―流行と社会」から

「成熟」示せるか

学校や企業など数々の制服のデザインを手掛けたコシノさんは今回、約10種類に及ぶ会場スタッフのユニホームについてアドバイスし、選定にも関わった。性別や年齢を問わず、万人に合うユニバーサルデザイン-。ファッションにおいては矛盾をはらんだ条件だが、時代の要請に応えるメッセージ性が求められた。

高度経済成長期においてアジア初開催となった70年万博に対し、今回は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに〝成熟型〟万博のモデルケースを示せるかが問われる。

コシノさんは「命の大切さは永遠の課題であり、世代や時代を問わず変わらない。こうした認識を共有する万博にしたい」と語り、訴えた。

「あれもこれもと欲張ることが許された70年と異なり、余計なものを落とし洗練された万博を見せる。2回目のプレッシャーはありますが、言いたいことは一つ、というぐらい思い切ったことをしないと」

「万博の失敗は日本の失敗」

2度目の万博でも、求められるのは新たな体験だ。能とファッションを融合させたショーを行うなど斬新さを追求してきたコシノさんは「食や祭り、音楽など五感を使って体験を重ね、経験値を蓄えないといけない」と強調する。その上で「万博は新しい文化が開花するように、各国がビジョンを持ち寄る舞台」として、2度にわたる大阪開催を「使命」と呼んだ。

次の言葉は、パリやニューヨークなど各地を渡り歩いて実績を残してきたコシノさんの人生を想起したとき、重みをもって響く。

「万博は世界に日本の存在を提示する国家プロジェクト。決して大阪だけのためではない。万博の失敗は、日本の失敗です」(石橋明日佳)

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