百貨店の大沼山形本店の元社員が経営するセレクトショップ「サロンドドゥ」=山形市で2024年2月23日、神崎修一撮影
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 山形県で唯一の百貨店だった山形市の老舗「大沼」が経営破綻して4年が経過した。市民に愛された「街の顔」は解体されずにそのまま残る。それでも元社員が奮起し、地元商店街も変化を模索する。中心市街地・七日町の現状を取材した。

百貨店水準のセレクトショップ

 「七日町から『百貨店イズム』を消したくなかった」。大沼山形本店で食品部長を務めていた小笠原克巳さん(59)は2023年9月、大沼に近い七日町で元同僚らとともにセレクトショップ「サロンドドゥ」を立ち上げた。大沼で一番人気だったファッションブランドを取り扱う路面店だ。

 ターゲットは30~40代の女性。取材した2月には90平方メートルほどの真新しい店舗に卒業式や入学式など「ハレの日」にふさわしい婦人服をそろえていた。

 EC(電子商取引)サイトとも連動し、紳士服などさまざまな商品を取り寄せることも可能だ。スタッフには大沼の元同僚を呼び寄せて、接客も品ぞろえも百貨店水準を再現している。

2020年の経営破綻当時のまま残る旧大沼山形本店=山形市で2023年12月12日、神崎修一撮影
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 地元の「顔」だった大沼山形本店は20年1月に閉店した。県都の中心街からは化粧品や婦人服、紳士服、雑貨など百貨店ブランドの商品が突然失われ、山形県は全国で初めて百貨店が存在しない県となった。

 あれから4年。顧客は七日町から離れ、高速バスで約1時間の「100万都市」仙台市に流れているのが現状だ。

 それでも小笠原さんは七日町が東北を代表する街になれる可能性を信じている。「少しでも中心商店街に買い物に訪れて頂けるよう役に立ちたい」。目指すのはかつての大沼のように、市民に長く愛される店舗だ。

居心地良い街へ

 地元の商店街も変わろうとしている。

御殿堰周辺が山形市の「景観重点地区」に指定を受け、指定証書を受け取った岩淵正太郎さん(左から2人目)=山形市役所で2024年3月13日、神崎修一撮影
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 「商業環境は激変している。末永くご利用いただける『まちづくり』が必要だ」。七日町商店街振興組合理事長で、岩淵茶舗の岩淵正太郎社長(70)はこう強調する。

 組合は2月に創立60周年を迎えた。1950年代に大沼と丸久(後の山形松坂屋)の二つの百貨店が七日町に相次いで開店したことをきっかけに、商店街として共に発展を目指そうと設立された。

 ピーク時は現在の5倍にあたる1日1万3000人の通行量があり、「二つの百貨店を行き来する買い物客で商店街もにぎわった」(岩淵さん)という。

 しかし1990年以降は幹線道路沿いに駐車場を備えた大型店が台頭。2000年に山形松坂屋が閉店すると、中心街が空洞化する「ドーナツ化」が進み、大沼閉店でも打撃を受けた。

 今年、新たな商店街のコンセプトを「最高にちょうどいい。七日町」と決めた。若手組合員を中心に検討チームを発足し、目指すべき方向性を議論してきた。

山形五堰の一つ「御殿堰」は山形市の中心部、七日町を流れる=山形市で2024年2月18日、神崎修一撮影
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 「ちょうどいい」とは、長い歴史を礎とした景観の美しさ、まちの規模感、利便性など七日町の居心地の良さを表現したものだ。「より地域に根ざした商店街に」との思いも込める。

 3月には七日町を流れる歴史的な水路「御殿堰(ごてんぜき)」周辺が山形市から「景観重点地区」の指定を受けた。歴史や文化を生かした景観を保ち、街の魅力アップにつなげる狙いだ。

 指定証書を受け取った岩淵さんは「居心地が良い、気持ちが良い空間を作れば、お客様が寄ってくれる。住むにも買い物にもちょうど良い街にしたい」と述べた。

伝統の町並みにマンション続々

 中心街の町並みも変化している。七日町はJR山形駅から車で10分ほどの距離にあり、山形市役所や山形銀行本店、市立病院、ビジネスホテル、飲食店街が立ち並ぶ古くからの商業地。国土交通省が3月に発表した公示地価では「七日町1丁目」が商業地で10年連続で県内トップを守った。

旧大沼山形本店から取り外されクレーン車で下ろされる袖看板=山形市で2021年11月30日、横田信行撮影
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 大沼は看板こそ外されたものの重厚な建物は破綻当時のまま。対称的に、閉店した商店などの跡地にマンション建設が相次いでいる。

 21年以降、商業施設や漬物店、料亭の跡地などに15階建て以上の高層マンションが4棟完成。伝統ある町並みの中に近代的な高層建築が点在する。七日町に隣接するエリアでも大手不動産業者による建設計画が動き出した。

 山形県内の不動産事情に詳しい不動産鑑定士の月田真吾さん(57)によると、マンション事業者は仙台など競争が激しい都市部を避け、開発用地を求めて山形市へ進出しているのだという。

 月田さんは「『雪かきが大変』と郊外の戸建てから住み替えるシニア層が多いそうだ。中心街の人口が増えることは、地元の商店にとってはプラスだ」と話す。

「非日常」個性生かした再整備を

 中心街の未来について専門家に聞いた。

 山形大の是川晴彦教授(公共経済学)は、山形市の中心市街地の現状について、大型店進出前に比べると少し寂しくなっていると指摘する。「メインの通りが1本でわかりやすい構造で、(旧県庁の)文翔館や御殿堰などがあり、街の顔としての機能は発揮している」。郊外店にはない非日常的な空間が強みだという。

大沼山形本店の閉店を知らせる張り紙を見つめる市民たち=山形市で2020年1月27日、渡辺薫撮影
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 一方、山形市の中心街へ市民の足が遠のいている理由について、高速道路で仙台市へアクセスしやすい▽自家用車の世帯あたり普及台数が全国3位と高い▽市内を走る路線バスが減少している――ことなどを挙げた。自動車に依存する「クルマ社会」は地方共通の課題だ。

 大沼跡地は、行政が主導して再開発を進める。山形市は20年に外郭団体を通じ、土地建物を3億8200万円で取得。老朽化が激しく、短期的な活用は困難と判断し、大沼と隣接する市立病院を一体で再開発する方針だ。

 「病院が残ることはエリアの活力につながる。しかし大沼の跡地にどのような機能を持たせるかは難しい」とみる是川教授。「再開発ビルだけが成功しても、街の全体に人は回遊しない。だからこそビルから人が街を歩き、街全体がどう活性化するかを考えないといけない」と訴える。

 七日町が持つ個性を生かした再整備ができるかが、成功へのカギになりそうだ。【神崎修一】

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