世界自然遺産の知床半島で国が許可を出した携帯基地局の整備が中断する事態となっています。

 貴重な自然を保護しながら安全を守ることはできるのでしょうか。

 自然によって作られた巨大な岸壁や、雄大にそびえたつ山々。知床では週末、全国から観光客が訪れていました。

 「めっちゃ、きれいでした。山と海と超ぜいたくという感じでした」(神奈川から)

 「自然というのはすごいね。滝が一番、感動した」(長野から)

 世界自然遺産に登録されて、2025年で20年を迎える知床。

 しかし、いまこの「貴重な自然」と「安全」をどう両立し守るかが議論となっています。

 そのきっかけは2年前、知床沖で起きた事故です。

 観光船KAZU1が沈没し、26人が死亡・行方不明になった事故では、当時、船長の通信手段は携帯電話で、航路の大半は圏外でした。

 事故を受けて国は、知床半島の通信環境を改善するため4か所に携帯電話の基地局を整備することを決めました。

 そのうち、半島先端にはサッカーコート1面分に相当する7000平方メートルの広さに246枚のソーラーパネルを設置するほか、2キロにわたりケーブルが埋められる計画が、4月に発表されました。

 しかし自然保護団体や地元の斜里町から世界自然遺産としての景観が損なわれることや、動植物への影響を指摘する意見が相次ぎました。

 「かなり知床のイメージが壊れますね。議論が足りないですね。地元の説明会を開いていない、地元の意見を全然聞いていない。だまし討ち的な感じ。問題の大きさを把握していないですよね」(自然ガイド 綾野雄次さん)

 これまで基地局の整備を国に求めていた斜里町の山内浩彰町長も自然環境などを懸念する声を受け止め、5月末、町のホームページで、工事の見合わせを求めました。

 一方、同じ知床半島にある羅臼町では、漁業者の安全や命を確保するため基地局の整備を「強く要望する」と立場が分かれています。

  羅臼町の小型観光船の船長は…

 「羅臼の漁業者や観光船事業者にとって(携帯電話の基地整備は)悲願だった。衛星電話や無線で良いのではないかというけれど、携帯電話が使えることに越したことはない。議論もなしに一方的に反対はおかしいなと思う」(知床ネイチャークルーズ 長谷川正人さん)

 環境省や専門家は6月7日、札幌市で有識者会合を開きました。

 ソーラーパネルの設置場所近くに国の天然記念物「オジロワシ」が過去に営巣していた記録があることなどが指摘され、必要な調査が不十分などとして事業者に再調査をするように求めました。

 「科学委員会が一定の考え方を示してくれたので、そのことが尊重されるべきだなと思うし、そういった方向でまた議論を深めていきたい」(斜里町 山内浩彰町長)

 環境省はその結果を踏まえて、計画の見直しなどを検討することにしています。

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