ホストクラブ通いで借金が膨らみ、首が回らなくなった女性が示された返済方法は、海外での売春行為だった。貯蓄も奪われ、心身を壊した女性。その証言からは、華やかな東京・歌舞伎町の「闇」が垣間見える。
言葉も通じない国で…
「風俗店の勤務経験はなかったし、絶対無理だと思ったけど、やるしかなかった」
昨年6月、売春するため中国・マカオに渡航した40代女性は、追い込まれていた当時の心境をこう振り返る。
歌舞伎町のホストクラブに勤務するホストに入れあげ、一昨年の年末ごろから頻繁に店に通うようになった。
自ら事業を立ち上げるなど蓄えがあったが「貯蓄を見透かされていた」。店に入るとカードを提出させられ、無断で100万円を決済されたり、数百万円のシャンパンタワーを続けざまに注文させられたりした。
支払いに使っていたクレジットカードが限度額に達するたび、他社で新しいカードを作成。カードの枚数が30枚ほどに達し、支払いが追い付かなくなってきたとき、ホストが提示した選択肢の一つが、「海外で売春をして稼ぎ、返済する」だった。
「エージェント」と呼ばれる斡旋業者を紹介され、米国や台湾など複数の選択肢から女性が選んだのは、「東洋のラスベガス」ともいわれるマカオだ。
売春施設が併設されている高級ホテルで、勤務時間は午後6時~翌午前4時。1時間に数回〝品定め〟のショータイムが開かれ、40~50人ほどの観客を前にステージに立った。観客から指名を受けると個室に移動し、「サービス」を施した。
1回につき約3万円の収入が約束されていたというが、仕事は肉体的にも精神的にも過酷だった。1日5、6人を相手にして数日たったころ、心身に不調を来たし、雇用主に申し出て帰国した。
「言葉も通じない国で体を売るのは本当にきつかった」
2500万円の借金
<どちらにしても頑張るしかない。マカオで頑張る>。女性は、ホストとのLINE(ライン)をやりとりで、こう決意をつづっていた。
ホストからは「俺が一生面倒見るから」などと甘い言葉をかけられたというが、消費者金融での借り入れや、アダルトビデオへの出演を持ち掛けられることも続いていた。
体調を崩し帰国後も、ホストからは風俗店で勤務するよう言われ続け、東京・吉原で働いた。結局、ホストクラブに支払ったのは総額約2500万円。次第に気持ちは冷めたが、カード会社などへの支払いは今も残る。「つらいが、どうすることもできない」
同意なく無謀な支払いを強要したとしてホストクラブ側を相手取り、支払金の返還を求め提訴を考えているというが「仕事もお金も失って、悔やんでも悔やみきれない」。後悔が口をついた。
入国拒否、摘発相次ぐ
女性が日本から海外に行き、売春行為に従事するケースは最近、相次いでいる。円安も背景にあるとみられ、米国は売春が疑われる女性の入国を次々拒否。日本の捜査機関にも斡旋業者などの情報が寄せられているといい、専門家は「『稼げればいい』とリスクの認識が薄くなっている」と警鐘を鳴らす。
警視庁は今月、求人サイト「海外出稼ぎシャルム」を運営し、女性に米国での売春を紹介していた男4人を職業安定法違反容疑で逮捕した。サイト上には「観光をかねての高収入」「リゾート感たっぷり」などの誘い文句が並び、男らは3年間で200~300人の女性を米国などの売春店に斡旋していた。
ただ、売春は命の危険も伴う。警視庁が1月に摘発した女らを通して渡米した30代女性は、現地で薬物を強制させられそうになった上、砂漠に連れ去られ「口外したら殺す」と脅されたという。
また、発覚すれば取り返しのつかない〝烙印(らくいん)〟を押されることも。米国のビザ事情に詳しい佐藤智代行政書士によると、売春目的での渡航が発覚すると、10年は入国ができなくなる。売春に関わっている人物と連絡を取ったことがある程度でも追及されるなど、「水際対策は厳しくなっている」という。
佐藤氏は、「入国拒否を受け、客室乗務員など希望の職に就けない、海外出張ができないというケースもある。絶対にやめてほしい」と呼び掛けている。(外崎晃彦、橋本愛)
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