「紀州のドン・ファン」と呼ばれ、2018年に急性覚醒剤中毒で死亡した和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が約13億円とされる遺産を市に寄付するとした遺言書を巡り、市側と野崎さんの親族が有効性を争った訴訟の判決が21日、和歌山地裁であった。高橋綾子裁判長は「筆跡や体裁から本人が全文や氏名などを自署したとみられる」とし、遺言書は有効と判断した。

野崎幸助さんの死後に発見された遺言書の写し(画像の一部を加工しています)=共同

市や判決によると、遺言書は13年2月8日付で「いごん 全財産を田辺市にキフする」と紙に赤ペンで手書きされていた。野崎さんの死後、経営していた酒類販売会社の役員宅で発見され、その後和歌山家裁田辺支部で遺言書の要件を満たしていると判断された。

市側は18年に同支部で遺言書を確認し、19年に遺産の受け入れを表明。これに対し野崎さんの兄ら4人が20年、遺言書の無効確認を求め提訴した。

判決理由で高橋裁判長は、野崎さんが過去に書いたとされるメモなどと対照し、遺言書の筆跡と特徴が似ていると指摘。また筆記具に好みの色である赤ペンをよく使用し、遺言書を自署した裏付けになるとした。

訴訟で親族側は市に寄付する合理的な動機が見当たらないと主張。しかし判決は、野崎さんがこれまで市に複数回、計1200万円の寄付をし、市の発展を望む発言もしていたことから、遺産を地元に寄付することに矛盾はないと判断した。

野崎さんの死亡を巡っては致死量の覚醒剤を摂取させ殺害したとして、21年に元妻の須藤早貴被告(28)が殺人容疑などで逮捕、起訴された。遺産を田辺市が受領した場合でも民法上、妻だった須藤被告は遺留分として一定額を請求する権利はあるが、殺人罪で有罪が確定すると欠格事由に該当し権利を失う。〔共同〕

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