交通事故で保護者が亡くなったり重い後遺障害が残ったりした子どもの学資を支援する公益財団法人「交通遺児育英会」(東京都)が、奨学生を対象に初めて実施したヤングケアラー実態調査の結果を公表した。11・2%の高校生や大学生らが「世話をしている家族がいる」と回答。心身の負担や経済的な不安を訴える声も多く、家族のケアに追われる交通遺児らの実態が見えてきた。
11%が「家族を世話」
調査は今年3月、830人の奨学生を対象にウェブ回答方式で行い、4割超の366人から回答を得た。回答者は、家庭状況により育英会から貸与や給付の奨学金を受けている高校生や大学生らで、平均年齢は19・7歳。
政府が2021年以降に公表した調査結果では、全日制高校生で4・1%、大学生では6・2%がヤングケアラーとされており、奨学生への調査はこれらを大きく上回った。「過去に家族の世話をしていた」との回答者(4・6%)も合わせると、ヤングケアラーか元ヤングケアラーとみられる奨学生は15・8%に上る。
同会によると、奨学生の家庭の6割強は交通事故で父親が亡くなり、約2割は父親に後遺障害が残っている。母親が亡くなったか重い障害が残っている家庭は1割超。将来や家計への不安、1人で家計を支える重圧や過労などから、残された側の保護者らが心身のバランスを崩すケースは珍しくないという。
政府調査では、高校生のヤングケアラーがケアする相手は「きょうだい」が最多だったが、奨学生の調査では「父親」が36・2%、「母親」が29・3%の順に多かった。ケア内容(複数回答)は、相手が父親の場合は、外出の付き添い(52・4%)▽家事(38・1%)▽見守り(28・6%)――の順に多く、母親の場合は、家事(56・3%)▽外出の付き添い(52・9%)▽感情面のサポート(35・3%)――の順だった。
3割が「精神的にきつい」
こうした調査結果からは、親が交通事故に遭った子どもが、家族の精神的な支えになっていたり、後遺障害のある家族の身体的介護をしたり、家事をこなしたりと、多様なケアを担っている実態が浮かぶ。
家族を世話するきつさ(複数回答)は、「特に感じていない」(39・7%)が最多だったが、「精神的にきつい」(32・8%)、「時間的余裕がない」(27・6%)との回答もあり、一定数は心身ともにつらい状況にあるとみられる。
助けてほしいこと(複数回答)では、「家庭への更なる経済的な支援」(34・5%)、「特にない」(24・1%)、「就学への新たな特別支援金」(20・7%)――の順で、家庭の経済状況に余裕のなさや不安を感じているヤングケアラーが少なくないことも分かった。
「経済的に困窮」切実な声も
自由記述には「金銭以外にも心のサポートが必要。思春期の時に介護をしたので、わがままも言えない性格になってしまった」という経験に基づく訴えや、「(家族をケアすることは)小さいころから当然だと思っていたが、公的な機関でサポートしてもらえるなら、その情報がほしい」との訴えが寄せられた。事故に遭った母親を支えているとみられる奨学生からは「経済的に困窮している。我が家の何をどこから改善すればいいか分からない」と切迫した不安の声もあった。
育英会の石橋健一会長は「どのような支援ができるか検討し、できるだけ早く実行に移したい。支援体制が整ってきている自治体もあるので、そうした情報を奨学生たちに伝えることはすぐに始められる。就学のための資金支援の他に、どのような金銭的なサポートができるかも考えていきたい」と話している。【山田奈緒】
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