中央教育審議会は19日、少子化の進行を踏まえ、大学の収容定員を引き下げやすい仕組みを検討する方針を決めた。2023年春の入学者が定員割れした私立大学は5割を超える。各大学が規模を適正化することで経営状況を改善し、教育の質を維持できるようにする。

中教審の大学分科会と特別部会は同日、合同で会議を開いて大学の再編や統合の支援策などに関する中間まとめ案を大筋で了承した。定員引き下げに関する検討方針も盛り込んだ。中教審は23年9月に盛山正仁文部科学相から40年以降の高等教育の将来像について諮問を受け、新たに設置された特別部会で計8回の会合を重ねてきた。

文科省によると、収容定員は学部ごとに定められており、定員に応じて教員数や校舎規模といった教育環境の水準がルール化されている。定員の大幅な超過や不足があれば、学部の新設が制限されたり、補助金が減額されたりする。

定員が埋まらない場合、引き下げれば、必要な教職員を減らすなどして経営を効率化し、限られた財源を教育の質維持に使うことができる。教職員や施設を他の学部へ振り分けるといったことも可能となる。

一方で大学側にとって定員引き下げはハードルが高い。元に戻すことになった場合、学生確保の見通し策などを同省に提出し、大学設置・学校法人審議会の審査を受けるという手続きをもう一度踏む必要があるためだ。「定員を元に戻すのは困難という認識が広がっている」(地方私大幹部)という。

中教審はこうした状況を踏まえ、一定の条件を満たす場合に一時的に減少させた定員の一部や全部を戻すことを容易にする仕組みの創設を検討する。条件の中身や制度改正の必要性など、具体策については今後議論する。例えば数年間限定で定員を引き下げ、入学者が増えれば定員を元に戻すことなどが考えられる。

日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)によると、23年春の入学者が定員割れした私大は320校で、53.3%に上った。同省担当者は「少子化が加速する中、私大の経営状況は一層悪化することが見込まれ、実態に伴った経営が求められる。柔軟に定員を引き下げやすくし、規模に適した教育を展開することで質を下げないことが必要だ」と話す。

中間まとめ案は、急速な少子化について「目をそらすことのできない事実で、現実を直視すべきだ」と強調した。6月の特別部会では40年度ごろの大学・短大進学者が毎年約2万3000人減少し、23年度の大学・短大の入学定員に換算すると86.5校分に相当するとの試算も示した。「大学界に一層の危機感を持ってもらう狙いがあった」と同省幹部は力を込める。

「今後は定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関がさらに生じることは避けられない」とした上で、再編・統合や縮小・撤退の支援が必要とした。

財務状況が厳しい大学が統合し、学生数が定員を超過しても、補助金減額の罰則を軽くするといった特例措置も検討する。学部開設後に定員未充足や不採算の状態が継続する場合、撤退への指導を強化する。

教育の質の高度化も目指す。グローバル化が進む中、優秀な外国人留学生の受け入れを進めることが不可欠とし、留学生の定員管理策を見直す方針だ。学生の成績評価や卒業認定の厳格化も促進する。

人口減が進む地方については「質の高い高等教育へのアクセスが確保されない事態も想定されるため、対応は待ったなしだ」と言及。地域の実態を踏まえた連携・再編計画を策定するために、大学や自治体、産業界などが話し合う場の構築が必要だとした。コーディネーターとなる人材の配置や、国が司令塔機能を果たす組織を整備することなどを求めた。

特別部会ではいずれのテーマも今秋以降に具体策を打ち出す。これまでの部会で深掘りできていない授業料や公財政支援のあり方など高等教育の財務構造についても集中的に検討するとみられ、文科省関係者は「秋以降の議論のポイントになるだろう」とみる。

中教審は24年度中に答申をまとめる。答申を受け、同省が政策への反映を目指す。

(大元裕行)

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