石川県警は24日、1月に発生した能登半島地震を巡りSNS上に救助を求める虚偽の投稿をしたとして、男を偽計業務妨害容疑で逮捕した。男の投稿を受け警察官が救助に向かったが、被害は確認されなかった。災害時の悪質なデマは人命救助や復旧活動に深刻な影響を及ぼす恐れがある。警察当局が厳格な姿勢を示した。

逮捕したのは埼玉県八潮市の会社員。逮捕容疑は1月1日午後7時ごろ、X(旧ツイッター)上で被災者を装い虚偽の救助要請を投稿し、県警機動隊に捜索活動をさせ業務を妨害した疑い。

捜査関係者によると、容疑者による投稿は倒壊した建物に親族がはさまれ重篤な容体に陥っているとする内容だった。県警によると容疑を認め「震災に便乗して自分の投稿に注目してほしかった」などと供述しているという。

2011年3月に起きた東日本大震災をきっかけに、SNSは自治体や警察が把握できない現場の情報を発信する手段として重視されている。しかし能登半島地震では発生直後から、被災状況や寄付を巡る偽情報と疑われる投稿が相次いだ。

一般社団法人が運営する日本ファクトチェックセンターは能登半島地震にからむ偽情報を、実際と異なる被害投稿▽不確かな救助要請▽虚偽の寄付募集▽根拠のない犯罪情報▽その他陰謀論――という5類型に分類した。問題のある10件以上の投稿について「誤り」や「不正確」とホームページで紹介し、注意を促した。

災害時の情報はSNSで拡散されやすい。虚偽だった場合、人命救助に遅れが出たり、被災者向けの寄付金が詐取されたりといった影響が広がる恐れがある。警察幹部は「偽情報は被災者の生命や財産に危険を及ぼす。厳正に対処する」と強調する。

地元の石川県警が救助や復旧活動に注力するなか、警察庁のサイバー特別捜査部が捜査を支援。発信元となったアカウントの分析を進め、県警と協力して容疑者を割り出した。

災害を巡る虚偽投稿は後を絶たない。16年の熊本地震では「ライオンが動物園から逃げ出した」と虚偽投稿した男が逮捕された。22年に静岡県に接近した台風15号を巡り水没した市街地の画像がSNS上で拡散したが、人工知能(AI)による偽画像と判明した。

背景として指摘されるのは注目度や関心が経済的価値となる「アテンション・エコノミー」の広がりだ。Xは23年夏に投稿の閲覧回数に応じ広告収入を受け取れる仕組みを始めた。能登半島地震の虚偽投稿はこれを悪用した収益目的との見方が強い。

偽情報に詳しい法政大学の藤代裕之教授は「SNSの影響力が高まる中、警察が偽情報への対応を厳格化させるのは当然」と指摘する。「SNSを情報インフラとして活用するのは難しくなっている。警察や消防は偽情報が紛れることを前提として真偽を判断する専門組織を整える必要もある」と話している。

悪質投稿、対策急ぐ 削除やアカウント停止

SNS上には災害時のデマだけでなく、個人への誹謗(ひぼう)中傷やサイバー攻撃で企業から盗み取った個人情報といった投稿もあふれる。国は悪質な投稿に対し、削除や発信停止に向けた対策の整備を急いでいる。

総務省はネット上の偽・誤情報を主に2つに分類している。虚偽・誇大広告や他人の権利を侵害する「違法情報」、災害時の救助活動の妨げを含む公共の安全に支障を及ぼしたり、個人の健康に悪影響を与えたりする「有害情報」だ。

対策を検討してきた同省の有識者会議は7月に公表した提言案で、違法情報や有害情報について、SNS事業者による削除やアカウント停止を迅速化させる制度整備を政府に求めた。著名人になりすます虚偽広告を念頭に、広告の事前審査の必要性についても記した。

違法情報を巡っては、SNS上での「拡散」にも注意が必要だ。個人のX(旧ツイッター)には第三者の投稿を転載する「リポスト(リツイート)」機能がある。投稿した本人でなくても、転載についての法的責任が問われる可能性がある。

大阪高裁は2020年6月、個人を中傷する投稿のリポストを名誉毀損行為と認め、賠償を命じた。判決は元の投稿表現が社会的評価を低下させる場合、リポストした人も「経緯、意図、目的、動機などを問わず不法行為責任を負う」と指摘した。

6月にKADOKAWAが大規模なサイバー攻撃を受けた問題では、攻撃を仕掛けたとされる組織が公開した個人情報がネット上で拡散。同社は悪質な情報拡散を400件超確認し、刑事告訴といった法的措置の準備を進める方針を示している。

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