静岡県警本部=高場悠撮影

 外国為替証拠金取引(FX)の口座を不正に開設したとして、静岡県警公安課などは6日、日本人男性2人を私電磁的記録不正作出容疑で静岡地検に書類送検した。うち1人はロシアに在住する北朝鮮のIT労働者とみられる人物の指示を受けていたことが判明し、県警はFXで得た利益が北朝鮮の関連組織に渡った可能性が高いとみて全容解明を進める。

 書類送検されたのは、住居・職業不詳の男性(51)と、横浜市緑区在住の会社役員の男性(35)。送検内容は2021年1月、北朝鮮のIT労働者とみられる人物と共謀し、証券会社が約款で禁止する「自動売買システム」を使用してFXを行うつもりにもかかわらず、約款を順守するなどと伝え、顧客データベースに登録。不正に口座を開設したとしている。

 捜査関係者によると、いずれも「(自動売買システムが)禁止されているとは知らなかった」と供述しているという。

北朝鮮のIT労働者の関与が疑われるFXの構図

 2人のうち、北朝鮮の人物から指示を受けていたのは職業不詳の男性で、メールやSNS(ネット交流サービス)の分析で判明した。過去には北朝鮮との貿易に携わり、渡航歴もあった。現在は海外にいるとみられる。

 この男性は同じ大学出身の会社役員に「お金を出すのでFX口座を用意してほしい」などと持ちかけていた。会社役員は証券会社に口座を開設し、取引に使う仮想専用サーバー(VPS)も契約した。

 実際の取引は、北朝鮮の人物が会社役員になりすまし、サーバー内に組み込んだ「自動売買システム」で行われていた。あらかじめ設定されたルールに従い、自動で為替取引を行うソフトウエアで、北朝鮮が開発に関与したとみられるが、サーバーは海外にあるため詳細は不明。少なくとも40万円の利益があり、その約3割が北朝鮮籍の人物に分配されていたとされる。

 県警はこうした取引の構図は北朝鮮による外貨獲得工作の一環とみている。男性からFXを勧誘されたのは会社役員を含め16人で、証券会社10社に計47口座を開設。FXによる利益は計約1700万円に上るという。

 捜査関係者は「北朝鮮のIT労働者が日本人を利用し、不正なFXで外貨を獲得している実態を解明した意味は大きい」と話した。【丘絢太、最上和喜】

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