提訴への思いを語る中野典昭さんの遺族=和歌山市の弁護士会館で2024年9月25日午後1時58分、安西李姫撮影

 和歌山県田辺市危機管理局長だった中野典昭さん(当時57歳)が、2018年8月の台風災害対応直後に急死した問題で、遺族が25日、市に7146万円の損害賠償を求めて和歌山地裁に提訴した。原告側は、市が安全配慮義務を怠っていたことが死亡した要因としている。

 訴状によると、中野さんは台風20号の接近に伴い、8月23日朝から翌24日夕方までの間、休息や仮眠を取ることなく徹夜で業務に当たった。その後帰宅して就寝したが、25日午前10時ごろに脳出血を発症し、26日に搬送先の病院で死亡が確認された。20年6月には公務員の労災に当たる「公務災害」に認定された。

 遺族は防災体制下のトップだった副市長が登庁しなかったことを問題視。遺族の求めで市が設置した第三者委員会は今年1月に報告書をまとめ、組織上の問題が中野さんへの負荷を大きくしたとしたものの、副市長の登庁の有無と中野さんの急死に「直接的な因果関係があるとは言いがたい」と判断した。

 また、市は原告側の問い合わせに対して今年7月26日付の書面で「安全配慮義務の懈怠(けたい)はなく法的責任を負うものではない」との見解を示した。遺族はこれに対して「責任を認めてほしい」と考えており、提訴に至った。

 記者会見した原告代理人の松丸正弁護士は「全国各地で災害対応に当たっている公務員共通の問題。公務員の勤務時間管理、健康管理に対する体制を問う裁判になる」と説明。中野さんの妻(64)は「全国で災害がある度にフラッシュバックする。私たちのような悲しい出来事が二度と起こらないでほしい」と訴えた。

 市は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。【安西李姫】

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